腹腔鏡手術で避妊手術をする理由

なぜ腹腔鏡で避妊手術?

腹腔鏡手術のメリット

 手術の傷口が小さい

腹腔鏡手術を始めとする内視鏡手術は動物に負担の少ない手術(低侵襲手術)と言われています。避妊手術においても3−5㎜程度の傷穴が3箇所で手術を行うことが可能です。傷口を小さくして手術を行えるのが腹腔鏡手術の大きな特徴でメリットではありますが、それだけが「痛みが少ない」=「負担が少ない」の理由なのでしょうか?

実際には傷口が小さいだけが腹腔鏡手術が低侵襲手術と呼ばれる所以ではありません。それについて少しご説明したいと思います。
 

不妊化手術(避妊手術)の痛みや不快感はどこから?

手術をした際の痛みの原因についてはいろいろな考えがあります。手術をするためにお腹の皮膚を切ることが痛みの原因?もしくはお腹の壁(筋肉)を切ることが原因?それともお腹の臓器を触ることが不快感を起こすのか? 実際にはどうなんでしょうか?
 
犬における不妊化手術において痛みがどこから発生するのか、それを研究したひとつの報告があります。不妊化するには卵巣を切除する必要があります。卵巣はお腹に靭帯(じんたい)組織(詳しくは卵巣提索)と呼ばれる構造によって背中側に固定されています。卵巣を切除するにはこの靭帯組織を引っ張る必要が出てきてしまいます。この靱帯組織を引っ張ると痛みが発生することが研究で明らかになりました。(Boscan et al., 2012)
また、この靱帯組織には多くの神経が走っており、そこに刺激が強く加わるとバソプレシンと呼ばれるホルモンの仲間である物質が血液に放出されます。これは血管を収縮させて血圧を上げる作用があります。ある研究では不妊化手術の最中に、お腹を切開する時や縫ったりする時よりも卵巣を引っ張った時が一番血圧が高くなることが明らかにされました。(Hoglund et al., 2014)
 

痛みは皮膚の傷ではなくお腹の中から。

従来、手術の痛みはお腹を切ることだと考えられていた時代には不妊化手術の際に傷口を小さくすることが良いと考えられ、小さな切開で手術がされていました。しかし、小さな傷では臓器をきちんと見ることが出来ないため、卵巣を摘出するには卵巣の靱帯組織を体外に強く引っ張る必要があったのです。しかし、これは先の報告を考えると実は動物に大きな負担であったことがわかります。小さな傷で痛みを小さくしようとしたことが逆に負担になってしまう可能性が出て来てしまいました。
 

腹腔鏡手術においてはこの卵巣と靭帯の切除は完全に体内で行います。そのため開腹手術と違ってほとんど引っ張る必要がありません。これによって手術後の痛みや不快感が軽減されると考えられていまます。この違いは非常に大きく、動物に与える負担(侵襲性)を小さくすると考えています。

なぜ?腹腔鏡手術?

腹腔鏡避妊手術での違い

術後の痛みの軽減

 いくつかの報告では一般的な不妊化手術と内視鏡(腹腔鏡)手術を比べた結果、手術後の痛みが軽減したとされています。これはペインスコア(痛みの表現をスコアリングしたもの)で示され、いくつかの研究機関に渡って報告されています。

ペインスコア

HANCOCK ET AL., 2005 より改変

手術後の活動性

手術を行うと痛みや不快感から動物はどうしても元気をなくしてしまいます。不妊化手術において、術前と術後での活動性(元気さ)がどのように変化するか調べた報告があります。手術を受ける犬の術前の動きをセンサーを使って調べ、その犬が手術後48時間にどのように変わるのかを記録しました。結果、開腹手術では手術前に比べて活動性は平均38%、つまり術前に比べて3分の1の動きしかなくなってしまいました。元気は68%減少したのです。一方、腹腔鏡手術では術後の活動性は75%、手術前の3分の2となりました。これは術前より25%の減少に留まったのですこれからも腹腔鏡手術では動物に与える負担を減らせる可能性が考えられたのです。

活発度の変化

CULP ET AL., 2009より改変

猫での不妊化手術

犬での腹腔鏡による不妊化手術での報告はいくつか出されていましたが近年になり猫での報告もされるようになっています。猫は小さな体ですが、犬と同様に腹腔鏡で不妊化手術を行うことが可能です。そして同様に開腹手術に比べて腹腔鏡手術では負担が軽くなることが示されています。(GAUTHIER ET AL., 2013、グラフは改変)

猫の痛み腹腔鏡手術

腹腔鏡手術

猫の痛み開腹手術

開腹手術

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