腹腔鏡手術の方法
2026年8月現在
腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)は、お腹に数mmの小さな穴をあけ、そこからカメラと細い器具を入れて行う手術です。お腹を大きく開けることなく、モニターに映した映像を見ながら手術を進めます。
「そんな小さな穴で、どうやって手術ができるのか」と思われるかもしれません。このページでは、その仕組みを3つのステップに分けてご説明し、あわせてなぜこの方法が技術的に難しいのかもお話しします。
体の中は、狭くて暗い
お腹の中は、臓器がすき間なく詰まっていて、光も届きません。そのままでは、見ることも器具を動かすこともできない場所です。手術をするには、まずこの条件を変える必要があります。
開腹手術は、この問題を「お腹を大きく切り開く」ことで解決しています。開けてしまえば、明るい手術灯の下で直接目で見て、手で触れて手術ができます。ただし、そのために大きな傷が必要になります。
腹腔鏡手術は、お腹を開けません。では、開けずにどうやって「見える・動かせる」状態をつくるのか。そのための工夫が、次の3つです。
腹腔鏡手術の3つのしくみ
①と②で「見える」状態をつくり、③で実際に手術をします。順番にご説明します。
1炭酸ガスで、空間をつくる
まず、お腹に数mm(3〜10mm)の小さな穴をあけ、そこからトロッカーという筒を差し込みます。この筒が、あとからカメラや手術器具を出し入れするための「通り道」になります。
そしてこの筒から炭酸ガス(二酸化炭素)を送り込み、お腹をふくらませます。これを気腹(きふく)と呼びます。お腹の壁が持ち上がることで臓器との間にすき間ができ、ここではじめて、手術のための空間ができます。
かんたん解説:なぜ「炭酸ガス」なのか
お腹をふくらませるガスには、体に吸収されやすく、体内で燃えることがないという条件が必要です。手術では電気メスなど熱を使う器具も入るため、燃えないことが重要になります。炭酸ガスはこの条件を満たすため、人の医療でも動物の医療でも標準的に使われています。
なお、気腹そのものが体にかける負担については、腹腔鏡手術のデメリットのページで詳しくご説明しています。
2光で照らして、カメラで映す
空間ができても、体の中は暗いままです。そこで内視鏡には、光を送り込むしくみが備わっています。細い筒の中を通して光を届け、お腹の中を明るく照らします。
照らされた体内を、筒の先のレンズがとらえ、モニターに大きく映し出します。術者はお腹の中を直接のぞき込むのではなく、この画面を見ながら手術を進めます。
かんたん解説:細い内視鏡でも、明るく鮮明に見えるようになりました
内視鏡は細くなるほど、明るく鮮明な映像を保つことが難しくなります。動物では人より細い器具を使うため、ここは長く課題でした。
近年は技術が進み、動物に使える太さ5mmの内視鏡でも4K(テレビの4Kと同じ高精細な映像)で見ることができるようになりました。光源もLEDになり、非常に明るい術野が得られます。体の小さな動物でも、細かい構造まで確認しながら手術を進められます。
ここまでで、「空間がある・明るい・見える」という、手術に必要な条件がそろいました。開腹手術がお腹を大きく開けて実現していることを、数mmの穴から実現しているわけです。
炭酸ガスで空間をつくり、そこへカメラと鉗子を差し入れます
3鉗子で、手術する
ただし、見えているだけでは手術はできません。組織をつかみ、切り、縫うための「手」が要ります。
その役割を果たすのが鉗子(かんし)です。イメージとしてはマジックハンドのような器具で、手元のハンドルを操作すると、お腹の中にある先端が動く仕組みになっています。鉗子にはいろいろな種類があり、物を掴んだり、切ったり、つまんだりと、様々なタイプの道具を使い分けて手術を行います。
かんたん解説:出てきた言葉の整理
- トロッカー お腹の壁に差し込む筒。器具の出し入れ口になります
- 気腹(きふく) 炭酸ガスでお腹をふくらませ、手術の空間をつくること
- 鉗子(かんし) 細長い手術器具。つかむ・切る・はがすなど種類があります
手元のハンドルを操作すると、お腹の中にある先端が動きます ※イメージ図です
ここまでのまとめ
炭酸ガスで空間をつくり、光で照らし、カメラで映し、鉗子で手術をする。
これが腹腔鏡手術です。
開腹手術とは、条件がまったく違う
ここまでお読みいただくと分かるように、腹腔鏡手術は開腹手術と同じことを、まったく違う条件のもとで行っていることになります。並べてみると、その違いがはっきりします。
どうやって見るか
開腹手術 直接、目で見る
腹腔鏡手術 モニターに映した映像を見る
どうやって触るか
開腹手術 手で直接、触れる
腹腔鏡手術 細く長い器具越しに触れる
奥行きの見え方
開腹手術 立体で見える
腹腔鏡手術 平面の画面から読み取る
器具の動かし方
開腹手術 手を自由に動かせる
腹腔鏡手術 お腹の壁が支点になり、動きが制限される
この4つの違いが、そのまま腹腔鏡手術の難しさになります。
なぜ腹腔鏡手術は難しいのか
手元と先端が、逆に動く
器具はお腹の壁を支点にして動きます。そのため手元を右へ動かすと、お腹の中の先端は左へ動きます。日常の動作とは逆になるため、慣れが必要です。また、穴の位置が支点として固定されるので、器具を動かせる範囲そのものも限られます。
触った感触が、伝わらない
開腹手術では、手で触れて組織の硬さや拍動を確かめられます。腹腔鏡手術では細く長い器具越しになるため、その感触がほとんど伝わりません。「触って確かめる」という手がかりが使えないぶん、目で見て判断する比重が大きくなります。
平面の画面で、奥行きを判断する
体の中は立体ですが、モニターに映るのは平面の映像です。どちらが手前でどちらが奥かを、画面の情報から読み取りながら器具を進めることになります。
動物は、作業できる空間が狭い
人と比べて動物は体が小さく、ふくらませて作れる空間そのものが狭くなります。限られた空間の中でカメラと複数の器具を動かすため、器具同士が干渉しやすくなります。
1つめの「手元と先端が、逆に動く」を図にしたものです。薄いグレーが動かす前、 濃いグレーが動かしたあと ※イメージ図です
難しいからこそ、鍛錬を重ねます
ここまでご説明した難しさは、経験によって埋まっていくものです。同じ手術でも、その手技をどれだけ数多く経験してきたかによって、成果に差が出ることが知られています。
当院が内視鏡外科の技術認定を重ねてきたのは、この難しさを体系的に鍛錬し、安定した技術として身につけるためです。
さらに良くするために、チームで手術をします
個人の鍛錬に加えて、腹腔鏡手術には開腹手術に無い利点があります。映像がモニターに映るため、術者だけでなく、助手も、麻酔を担当するスタッフも、全員が同じ画面をリアルタイムで見ながら手術を進められることです。開腹手術では、術野をのぞき込めるのは限られた人だけでした。
同じ画面をチーム全員で見ているからこそ、術者一人では気づきにくい変化にも助手や麻酔担当が気づき、声をかけ合うことができます。個人の技術を、チームの目でさらに支える体制です。小さな動物であっても、モニターに映し出される映像は拡大されており、通常であれば見にくい場所も細かく確認できます。
当院の手術は、麻酔科医の管理下で行っています。
手術に伴うリスクや、開腹手術のほうが向いている場合については、腹腔鏡手術のデメリットのページで正直にご説明しています。
執刀医
院長 吉田宗則
- 所属学会 日本獣医麻酔外科学会 / 日本獣医内視鏡外科学会 / 日本獣医がん学会など
- 役職 日本獣医内視鏡外科学会 技術認定委員長 / 日本動物病院協会 学術委員など
- 資格 日本獣医内視鏡外科学会 技術認定Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ
- 講演 内視鏡手術に関する様々な講演・教育講演
もっと詳しく
腹腔鏡手術そのものについては、次のページでご説明しています。
- 硬性内視鏡/内視鏡外科 —— 当院が対応している手術の種類
- 腹腔鏡手術のメリット —— 傷の大きさや痛み、回復について報告されていること
- 腹腔鏡手術のデメリット —— 弱いところと、当院がどう対応しているか
- 費用と設備についてのご質問 —— 何に費用がかかるのか
- 内視鏡手術とは? —— 内視鏡そのものについて
入院期間や術後の経過は、手術の種類によって異なります。それぞれの手術のページでご説明しています。
ご相談ください
「この子は腹腔鏡で手術ができるのか」「開腹手術とどちらがよいか」といったご相談は、診察としてお受けしています。実際に診させて頂いたうえで、その子に合った方法をご提案します。
はじめてご来院の方は 初診の患者さんへのご案内 もあわせてご覧ください。初診問診票を事前にご記入いただくと、当日の受付がスムーズです。