腹腔鏡下膀胱結石摘出術
内視鏡を用いた膀胱結石摘出
犬・猫の膀胱結石に対する内視鏡(腹腔鏡・膀胱鏡)を用いた摘出手術について、方法から費用、よくあるご質問まで詳しくご説明します。
腹腔鏡と膀胱鏡
腹腔鏡と膀胱鏡、どちらも聞いたことがある飼い主さんも多くいらっしゃいますが、違いは何?と聞かれることもあります。基本的には内視鏡であるということでは同じです。膀胱鏡は広い意味を持つ用語であり、膀胱に何らかの内視鏡を入れて行う検査や手術となります。人の医療では軟性内視鏡と言われる柔らかい内視鏡を用いて手術を行うことが多くなります。これは直径が2-3mm程度のファイバー状のものとなります。これを尿道から挿入し、膀胱もしくは腎臓内部まで到達させることが出来ます。これは動物でも用いることが可能ですが、小さな動物では尿道も細くてなかなか入ることが出来ません。メスはオスに比べて尿道が太いためにより可能性は高くなりますが、日本の都市部に多い小型〜中型犬にはなかなか難しくなります。
もう一つの膀胱鏡は硬性鏡システムを用いた内視鏡手術になります。直径が2.7〜5mm程度の筒状のカメラを膀胱内に挿入して内部を観察、手術を行います。お腹を少し切開し、そこからカメラを挿入することで小型犬でも膀胱内部の観察が可能になります。また、中型から大型の雌犬では直接尿道にカメラを入れることも可能です。そのために、動物病院ではこの硬性内視鏡を用いた膀胱鏡を用いる事が多くなっています。基本的には腹腔鏡の原理を用いて行うために腹腔鏡手術の1つとして行われます。膀胱を小さく切開して内部にアクセスするために完全な腹腔鏡手術ではないために、正確には腹腔鏡補助下手術とよばれています。
腹腔鏡補助下膀胱結石摘出術
お腹に5-10mm程度の小さな穴をあけてそこから腹腔鏡をお腹の中に挿入します。まずは内視鏡で膀胱を確認してお腹に引っ張ってきてお腹の壁に少し固定します。その小さな傷から膀胱を小切開し、カメラを膀胱内に入れていき内部を観察します。膀胱に開けた穴からカメラや鉗子と呼ばれる器具を入れて膀胱の中で手術をしたり、吸引管と呼ばれる液体を吸い取るための管状の器具をいれます。内視鏡カメラは非常に大きく拡大して内部を観察するために小さな結石や結晶、傷やポリープなどの細かな観察が得意です。
お腹に開ける傷は1箇所もしくは2箇所などいくつかの術式がありますが、痛みを少しでも小さくするために当院では1箇所で行うことが多くなっています。これは動物の大きさや結石の大きさによって異なります。
膀胱結石とその形状
レントゲン検査や超音波検査で見る膀胱結石は不鮮明な丸い石のことが多いと思います。実際には膀胱結石には様々な種類があり、その形状や表面、色などに特徴が多い結石も含まれます。例えば同じストルバイトでもそれぞれに特徴があります。長期間膀胱内にあった結石は膀胱内で転がることで表面が削られてしまい、ツルツルになっていることもあります。このような患者さんでは症状は軽く、発見が遅れてしまう場合も見受けられます。
一方で表面に多くの突起があるようなストルバイト結石などもあります。このような場合にはこの棘が膀胱粘膜を傷つけてしまい、血尿や排尿痛などの症状が強く出ます。
猫の結石でも起こりえますが、犬の結石症でも複数の結石が認められる場合もあります。このような患者さんでは事前に結石の数を正確に把握することが難しく、手術では取り残しが起こらないよう特に注意が必要です。当院では内視鏡でカメラを用いて内部を直接確認しながら摘出を行い、閉じる前に取り残しがないかをあわせて確認しています。
また、丸い結石と棘のある結石が混ざって形成される場合もあります。尿検査ではストルバイト結石と診断されていたが、内科治療に反応しない場合などではこのように複数のパターンが起こっていることがあります。実際に摘出された結石による成分分析によって原因が明らかになることも認められます。
結石の摘出
カメラで確認した結石は吸引もしくは鉗子による除去を行います。数mmの小さな結石や結晶は吸引管とよばれる液体を吸引する器具を用いて除去を行います。先端が3-5mm程度ですのでこれ以下の結石はこの器具を用いて摘出します。イメージとしては掃除機を使って小さなホコリを吸い取ってしまうような形になります。
5mm以上など吸引が出来ない結石は鉗子と呼ばれる器具で実際に掴んで体外へ牽引します。この場合には一度に一つしか掴むことが出来ないために一つずつ摘出することになります。
入院と退院
以前は一晩入院いただくことが一般的でしたが、現在は飼い主さんのご希望もあり、多くの場合その日のうちにご退院いただいています。傷が小さく体への負担が少ないため、麻酔から覚めて状態が落ち着けばお帰りいただけます。ただし結石の状態や全身状態によっては、一泊お預かりして経過を確認する場合もあります。退院後は基本的に通常通りの生活に戻っていただき、1週間後に抜糸を行います。それまで血尿などの異常がなければ通院の必要はありません。
手術費用について
内視鏡を用いた膀胱結石の手術は、一般的な開腹手術と比べて費用が高くなります。専用の器具や設備を用いること、術前検査から手術までを含めた体制が必要になることが理由です。
実際の金額は、結石の数や大きさ、全身状態によって変わります。診察と検査の結果をふまえて、手術前に必ずお見積りをご提示します。おおよその費用感については、ご来院前でもお電話やサイト内のAIチャットでお答えできますので、お気軽にお尋ねください。
ペット保険をご利用いただけます
本手術はペット保険の補償対象となります。ただし、補償割合や手術1回あたりの限度額はご加入のプランによって異なり、費用の全額が補償されるとは限りません。実際にどのくらいご負担いただくことになりそうかは、お見積りの際にあわせてご説明します。
また、アニコム損保・アイペット損保にご加入の場合は窓口精算に対応しています。お支払いの時点で保険が適用されるため、いったん全額を立て替えて後日ご請求いただく必要はありません。ご来院の際は保険証をお持ちください。
よくあるご質問
Q. 入院は必要ですか?日帰りできますか?
当院では多くの場合、その日のうちにご退院いただけます。傷が小さく体への負担が少ないため、麻酔から覚めて状態が落ち着けばお帰りいただけます。ただし結石の状態や全身状態によっては、一泊お預かりして経過を確認する場合もあります。
Q. 術後の痛みはどのくらいですか?
開腹手術に比べて傷が小さいため、術後の痛みは軽く済みます。海外の報告でも、開腹手術と比べて術後に痛み止めを追加で使う回数が少なかったとされています(Arulpragasam et al., 2013)。手術中および術後の痛みの管理も行いますので、多くの動物は当日から普段に近い様子で過ごせます。
Q. 高齢ですが手術を受けられますか?
年齢だけで判断することはありません。術前の検査で全身の状態を確認したうえでご相談します。当院の手術は麻酔科医の管理下で行っており、持病がある場合や麻酔にリスクがある場合も、検査の結果とリスクをあわせてご説明します。
Q. 結石はまた再発しませんか?
膀胱結石は再発することのある病気です。手術で取り除いて終わりではなく、再発を防ぐための取り組みが大切になります。当院では摘出した結石を検査に出して種類を調べます。結石はストルバイト、シュウ酸カルシウムなど種類によって成分が異なり、再発を防ぐための食事や管理の方法も変わるためです。検査の結果をふまえて、その子に合った予防の方法を一緒に考えていきます。
Q. 手術のデメリットやリスクはありますか?
全身麻酔を伴う手術である以上、リスクがまったくないわけではありません。また前述のとおり、開腹手術と比べて費用は高くなります。手術時間についても、内視鏡を用いることで短くなるわけではありません。一方で傷が小さく、術後の痛みや入院の負担を抑えられる点が利点です。どちらの方法がその子に適しているかは、結石の状態と全身状態をふまえてご相談させていただきます。
結石を残さないために
膀胱結石の手術で最も大切なのは、結石をすべて取りきることです。小さな結石が残ってしまうと、それが核となって再び大きくなり、再発の原因になることがあります。
これは手術の方法だけで決まるものではなく、手順を確実に行うことが何より重要です。当院では、摘出後に膀胱の内部と尿道を内視鏡で確認します。膀胱のしわの奥や尿道の入り口付近に小さな結石が隠れていることがあるためです。あわせて尿道の洗浄を行い、閉じる前に取り残しがないかを確かめています。
尿道に詰まってしまう前に
膀胱の中にある結石は、尿と一緒に尿道へ流れ出ることがあります。とくに雄では尿道が細いため、途中で詰まってしまうことがあります。尿が出せなくなると、短時間で命に関わる状態になります。
実際にあった例をご紹介します。結石が小さかったため、しばらく経過を見ていた犬の患者さんです。あるとき血尿が出たためご来院いただき、検査をしたところ、結石が膀胱から尿道へ移動して詰まっていることがわかりました。細い径の内視鏡を用いて摘出し、その後は回復されています。摘出した結石は検査に出して種類を調べ、再発を防ぐための食事について飼い主さんとご相談を続けています。
結石が膀胱の中にあるうちは、選べる方法が多く、体への負担も抑えられます。小さいから大丈夫とは限りませんので、気になる場合は早めにご相談ください。
内科治療で結石が溶けなかった方へ
ストルバイト結石は療法食で溶けることがありますが、すべての結石が溶けるわけではありません。シュウ酸カルシウムなど溶けない種類の結石もありますし、ストルバイトであっても溶けきらないことがあります。療法食を続けても血尿が治らない、結石が小さくならないという場合は、外科的な摘出が選択肢になります。一度ご相談ください。
開腹手術で行う場合
すべての患者さんで内視鏡を用いて手術ができるわけではありません。結石の数が非常に多い場合、尿道に結石が強く詰まっている場合、膀胱に強い炎症や癒着がある場合などでは、開腹手術のほうが適していることがあります。その患者さんの状況によって、開腹手術と内視鏡手術のどちらで行うかをご相談させていただいています。
参考文献
Singh A, et al. (2016) J Am Vet Med Assoc. 犬89例における開腹膀胱切開術と腹腔鏡補助下膀胱切開術の周術期比較。論文はこちら
Arulpragasam SP, et al. (2013) J Am Vet Med Assoc. 犬43例における腹腔鏡補助下と開腹下の膀胱結石摘出術の費用と手術時間の比較。論文はこちら
Buote NJ, et al. (2022) J Feline Med Surg. 猫28例における開腹と低侵襲膀胱切開術の比較。論文はこちら
Rawlings CA, et al. (2003) J Am Vet Med Assoc. 犬における腹腔鏡補助下膀胱鏡を用いた尿石摘出。論文はこちら