腹腔鏡手術のメリット
2026年8月現在
腹腔鏡手術(内視鏡手術)には、開腹手術に比べて良いところがいくつもあります。報告されている数字とあわせて、その内容をご紹介します。
当院がこれらの利点をどう活かしているかも、あわせてご説明します。
傷口が小さい
3〜5mmの傷を3か所に、が基本の形です
痛みが少ない
差が出た報告と同じ方法で行います
術後の元気の戻りが早い
早期の退院を目指せる体制を整えています
術後のストレスホルモンの上昇が少ない
麻酔科医の管理下で手術を行っています
消化管の動きの戻りが早い可能性がある
早期の食事再開など回復に配慮しています
感染などの合併症が少ない
人用の高性能機器で清潔な操作を徹底しています
拡大された視野で手術できる
経験を積んだチームでこの利点を活かします
1傷口が小さい
腹腔鏡手術では、皮膚に「ポート」と呼ばれる小さな傷口を開け、そこから器具を入れて手術を行います。動物の内視鏡手術では3〜5(10)mmの傷が主に用いられます。開腹手術では数センチの傷が必要になるのに対し、腹腔鏡手術では傷口を小さく抑えられます。
当院の対応
当院では、3〜5mmの傷を3か所に開ける方法を基本の形としています。
2痛みが少ない
腹腔鏡下の避妊手術と開腹手術を比較した報告では、術後の痛みのスコアが腹腔鏡群のほうが低いという結果が繰り返し確認されています。ハーモニックスカルペルを用いた腹腔鏡下卵巣子宮摘出術と開腹手術を比較した報告では、術後72時間までのすべての評価時点で、開腹群の痛みスコアが有意に高くなりました(Hancockら, 2005)。麻酔前投与薬の効果を調べた別の報告でも、開腹群は術後のすべての評価時点で腹腔鏡群より痛みスコアが有意に高いという結果でした(Tavaresら, 2023)。
もう一つの報告では、腹腔鏡群のほうが手術時間・合併症率は高かったものの、痛みのスコアは腹腔鏡群のほうが低いか同程度でした(Davidsonら, 2004)。
当院の対応
当院は、これらの報告と同じ、傷を2〜3か所に分ける方法で手術を行っています。ただし、腹腔鏡であれば必ず痛みが少ないと言い切れるわけではありません。くわしくは腹腔鏡手術のデメリットのページでご説明しています。
3術後の元気の戻りが早い
体重10kg未満の小型犬の避妊手術(卵巣摘出術)で、術前後の活動量を加速度計で比較した報告があります。腹腔鏡手術を受けた群では、術後48時間の活動量が術前に比べて25%の減少にとどまりました(95%信頼区間 11〜38%)。一方、開腹手術を受けた群では62%の減少がみられました(95%信頼区間 48〜76%)(Culpら, 2009)。
当院の対応
術後の元気の戻りが早いことは、入院期間の短縮にもつながります。
4術後のストレスホルモンの上昇が少ない
同じ麻酔プロトコルのもとで腹腔鏡下と開腹の卵巣摘出術を比較した報告では、術後のコルチゾール(ストレスホルモン)値が、開腹群で腹腔鏡群より有意に高くなりました(Čechovičienėら, 2026)。ハーモニックスカルペルを用いた報告でも、術後2時間の血漿コルチゾールは開腹群のほうが高いという結果でした(Hancockら, 2005)。
犬26頭を対象に、犬に特化した炎症・酸化ストレスの指標を用いて比較した報告では、炎症性サイトカイン(IL-6)と酸化ストレスの指標が、開腹群で術後7日目まで高い状態が続いたのに対し、腹腔鏡群では術後2〜24時間の一時的な上昇にとどまり、早期に落ち着きました(Calabriaら, 2026)。
当院の対応
気腹や麻酔の管理は、麻酔科医の監修下で行っています。
5消化管の動きの戻りが早い可能性がある
手術のあとには、胃や腸などの消化管の動きが一時的に落ちます(術後イレウス)。犬を用いた腸管手術(結腸切除術)の研究では、消化管の電気的な活動が正常なパターンに戻るまでの時間が、腹腔鏡下手術のほうが従来の開腹手術よりおよそ40%短く、はじめての排便までの時間もおよそ27%短縮されました(Böhmら, 1995)。
この報告は避妊・去勢手術ではなく腸管手術(結腸切除術)を対象にしたものですが、犬において腹腔鏡手術が消化管の動きの回復を早めうることを示す実測データです。
当院の対応
術後は早期の食事再開など、消化管の回復に配慮した管理を行っています。
6感染などの合併症が少ない
犬260頭の腹腔鏡下卵巣摘出術と開腹卵巣摘出術を比較した報告では、創傷に関する合併症が、開腹群で28.3%だったのに対し、腹腔鏡群では11%にとどまりました(Charlesworth・Sanchez, 2019)。
当院の対応
人用の高性能な内視鏡機器を使用し、清潔な操作を徹底しています。
7拡大された視野で手術できる
腹腔鏡手術のもう一つの利点は、カメラによって拡大された視野で手術ができることです。小さな出血や組織の変化も、大きな画面で確認しながら手術を進められます。
当院の対応
経験を積んだ院長とスタッフのチームで、この利点を活かした手術を行っています。
小さな傷口
手術のためには皮膚に”ポート”と呼ばれる小さな傷口を開けてそこから器具を入れて手術を行います。動物での内視鏡手術では3〜5(10)㎜の傷が主に用いられます。開腹手術では数センチの傷が必要ですが、内視鏡を用いた場合には小さな傷口で手術が行えます。
実際の手術では?
内視鏡手術のメリットは、表面の傷が小さいことだけではありません。手術全体を通して、動物への負担(侵襲)を抑えられることが大きな利点です。ここまでご紹介したように、拡大された視野や体への負担の少なさは、術後の回復にもつながっています。
一方で、腹腔鏡手術には知っておいていただきたい弱いところもあります。
→ 腹腔鏡手術のデメリット
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執刀医
当院では前身となるクウ動物病院本院にて2006年に腹腔鏡機器を導入し、内視鏡による検査や治療、内視鏡手術に対応しています。年間に多くの手術に携わることでその技術の発展に力を注いでいます。2017年にはクウ動物病院動物内視鏡医療センターとして、より進んだ治療に当たることが出来るような環境整備を心がけています。
院長 吉田宗則
- 所属学会 日本獣医麻酔外科学会 / 日本獣医内視鏡外科学会 / 日本獣医がん学会など
- 役職 日本獣医内視鏡外科学会 技術認定委員長 / 日本動物病院協会 学術委員など
- 資格 日本獣医内視鏡外科学会 技術認定Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ
- 講演 内視鏡手術に関する様々な講演・教育講演
参考文献
- Hancock RB, Lanz OI, Waldron DR, et al. (2005) Vet Surg 34(3):273-282. ハーモニックスカルペルを用いた腹腔鏡下卵巣子宮摘出術と開腹卵巣子宮摘出術の術後疼痛の比較。論文はこちら
- Tavares IT, Rivero R, Sales-Luís JP, et al. (2023) Vet Med Sci 9(3):1114-1123. 犬の腹腔鏡下卵巣摘出術における術前アセタゾラミド投与と疼痛・ストレスの検討。論文はこちら
- Davidson EB, Moll HD, Payton ME. (2004) Vet Surg 33(1):62-69. 犬における腹腔鏡下卵巣子宮摘出術と開腹卵巣子宮摘出術の比較。論文はこちら
- Culp WTN, Mayhew PD, Brown DC. (2009) Vet Surg 38(7):811-817. 小型犬における腹腔鏡下卵巣摘出術と開腹卵巣摘出術後の活動量の比較。論文はこちら
- Čechovičienė S, Šidlauskaitė I, Grigonis A, et al. (2026) Vet Sci 13(4):310. 同一麻酔プロトコル下での犬の腹腔鏡下卵巣摘出術と開腹卵巣摘出術におけるコルチゾール・酸化ストレスの比較。論文はこちら
- Calabria A, Del Prete C, Pasolini MP, et al. (2026) Vet Surg 55(5):984-993. 犬の腹腔鏡下卵巣摘出術と開腹卵巣摘出術における炎症・酸化ストレスバイオマーカーの比較。論文はこちら
- Böhm B, Milsom JW, Fazio VW. (1995) Arch Surg 130(4):415-419. 犬モデルにおける腹腔鏡下腸管手術と従来法の術後消化管運動の比較(避妊・去勢手術ではなく結腸切除術が対象)。論文はこちら
- Charlesworth TM, Sanchez FT. (2019) J Small Anim Pract 60(4):218-222. 犬の腹腔鏡下卵巣摘出術と開腹卵巣摘出術における術後合併症率の比較。論文はこちら
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