犬の慢性外耳炎・耳道ポリープ・耳孔腺癌の違いと、生検による見分け方
公開日: 2026年8月吉日 / 執筆・監修: クウ動物病院 動物内視鏡医療センター
治りにくい外耳炎、耳の中の「できもの」——それって本当にただの炎症?
「洗浄や点耳薬を続けているのに、外耳炎がなかなか治らない」「動物病院で耳の中にできものがあると言われた」——このような場合、犬の耳の構造が関係していることがあります。犬の耳は垂直耳道(タテ)と水平耳道(ヨコ)に分かれた構造をしており、蒸れやすく、外耳炎を起こしやすい部位です。ほとんどは感染やアレルギーによる炎症ですが、慢性的な炎症が続くと、耳道の中に「できもの」ができることがあります。
この「できもの」には、炎症そのものによる肉芽・良性のポリープ・そして稀に悪性の腫瘍(耳孔腺癌)まで、いくつかの種類があります。このページでは、それぞれの違いと、見た目や画像検査だけでは区別が難しい理由、そして確定診断のために生検が必要な理由を解説します。
- 外耳炎の治療を続けているのに、なかなか改善しない
- 耳の中に、はっきりと目に見えるできものがある
- 耳から出血する、悪臭が強くなってきた
- 耳を痛がる様子が強い、片側だけ症状が悪化している
これらは慢性化した炎症だけでなく、ポリープや腫瘍が背景にある可能性がある所見です。様子見を続けず、一度ご相談ください。
犬の耳道にできる「できもの」、主に3つに整理できます
海外の報告では、犬70頭・71個の外耳道腫瘤を調べたところ、内訳は次のようになっていました(Colombe et al., 2025)。
犬の外耳道腫瘤71例の内訳(Colombe et al., 2025)
耳道内ポリープ(良性)
- 今回の調査で最も多くを占めた
- 耳垢腺(耳道内の分泌腺)などに由来する良性のできもの
- 大きくなると耳道をふさぎ、外耳炎を治りにくくする原因になる
悪性腫瘍(耳孔腺癌など)
- 耳垢腺(耳孔腺)から発生する耳孔腺癌が代表的。別の海外報告(Veitch et al., 2026、犬39頭・41腫瘤)でも、耳孔腺癌が最も多いタイプ(13/41)だった
- 周囲の組織に浸潤しやすいが、後述のとおり転移は比較的稀
- 良性のポリープと見た目が似ていることがあり、外からの観察だけでは判断が難しい
慢性外耳炎による炎症性の腫瘤(肉芽)
- 慢性的な炎症の刺激で耳道の粘膜が盛り上がってできる、腫瘍ではない組織
- 耳の垂れた犬種など、蒸れやすい犬種で起こりやすい傾向がある
このように、慢性的な外耳炎・良性のポリープ・悪性の耳孔腺癌は、いずれも「耳道の中にできものがある」という状態として現れます。次にご説明するとおり、この3つを見た目や画像検査だけで区別するのは簡単ではありません。
見た目やCT検査だけでは、良性か悪性か区別できません
「できものが良性か悪性か、画像検査でわからないの?」とご質問をいただくことがあります。実際、CT検査は耳道の腫瘤の位置や広がりを把握するのに有用ですが、組織の種類(良性か悪性か)まで正確に判定することには限界があります。
前述のColombe et al.(2025)の報告では、CTで腫瘤の茎(細い付け根の部分)が確認できた場合はポリープである可能性が高いという所見はあったものの、それ以外にCT所見だけで組織型を予測できる特徴は見つかりませんでした。Veitch et al.(2026)の報告でも、悪性腫瘍は不均一な造影効果や骨の破壊を示しやすい傾向はあるものの、良性の腫瘍でも骨が溶けるような所見が見られることがあり、良性・悪性のCT所見にはかなりの重なりがあると報告されています。
つまり、「見た目やCT検査で怪しそうかどうか」だけで良性・悪性を判断することはできず、確定診断には組織を採取して調べる「生検」が必要ということです。
内視鏡(オトスコープ)を使った生検
耳道腫瘤があると、その刺激で耳道内に炎症や膿瘍(化膿)が起こることがあります。この排膿や分泌物によって耳道の奥まで見えにくくなり、通常の診察では「慢性外耳炎」と診断されて洗浄や点耳薬による治療を行っても、なかなか改善しないことがあります。
このような場合には、内視鏡を使って耳道の奥までしっかりと洗浄し、視野を確保したうえで検査する必要があります。通常の診察や一般的な耳鏡だけでは、できものの全体像や根元の状態まで十分に観察できないことも多く、この洗浄・観察の過程で、それまで隠れて見えていなかった耳道腫瘤が発見されることもあります。当院では、必要に応じて鎮静下でビデオ内視鏡(オトスコープ)を用い、耳道の奥深くまで直接観察しながら、できものの一部を採取して病理検査(生検)を行います。
写真: 内視鏡(オトスコープ)下で耳道内ポリープに生検鉗子を近づけている場面(当院症例)。
海外の報告(Pieper et al., 2023)では、ビデオオトスコープ下で生検を行い組織診断を確定したうえで、同じ内視鏡を使ってCO2レーザーでできものを焼灼するという治療法が紹介されています。この報告では、耳孔腺腫・耳孔腺癌いずれも再発率は1割未満と、低い再発率・合併症率で治療できたとされています。当院での対応については、できものの大きさや状態に応じて個別にご相談させていただきます。
生検によって「炎症性の肉芽」「良性のポリープ」「悪性の耳孔腺癌」のいずれであるかが確定すれば、それぞれに応じた適切な治療方針(経過観察・切除・追加治療の要否など)を立てることができます。
「悪性」と聞いて心配な方へ——犬の耳孔腺癌の予後
「悪性腫瘍」という言葉を聞くと、とても不安になると思います。ただ、耳孔腺癌に関する海外の報告(London et al., 1996、犬81頭・猫64頭を含む耳道腫瘍145例の調査)では、犬の悪性耳道腫瘍の生存期間の中央値は58ヶ月(約5年)を超えており、猫(11.7ヶ月)と比べて犬は比較的良好な経過をたどることが多いとされています。周囲の組織に浸潤する性質はありますが、転移は比較的稀と報告されています。
この報告では、外科的に完全に切除できるかどうかが治療の基本とされており、病変が広範囲に進展している場合は予後がやや厳しくなる傾向があるともされています。早期に生検で診断をつけ、適切なタイミングで治療につなげることが、良い経過を得るために重要です。
当院でのご相談
外耳炎がなかなか治らない、耳の中にできものがあると言われた、といった場合はご相談ください。診察のうえで、内視鏡(オトスコープ)による生検が必要かどうかも含めて、一緒に検討していきましょう。
はじめてご来院の方は 初診の患者さんへのご案内 もあわせてご覧ください。初診問診票を事前にご記入いただくと、当日の受付がスムーズです。
慢性外耳炎や耳道内ポリープの実際の症例写真はこちらでもご紹介しています。
参考文献
- Colombe P, et al. (2025) Am J Vet Res 86(11). 犬70頭・71外耳道腫瘤の後ろ向き研究。CT所見と組織診断の対比、生検の必要性について。論文はこちら
- Veitch K, et al. (2026) Vet Radiol Ultrasound 67(1):e70128. 犬39頭・41外耳道腫瘤のCT所見に関する多施設後ろ向き研究。論文はこちら
- Pieper JB, et al. (2023) J Vet Intern Med 37(6):2385-2390. 犬猫26頭の耳孔腺腫瘍に対するビデオオトスコープ下生検+CO2レーザー焼灼の後ろ向き研究。論文はこちら
- London CA, et al. (1996) J Am Vet Med Assoc 208(9):1413-1418. 犬81頭・猫64頭、耳道腫瘍145例の予後に関する後ろ向き研究。