犬・猫の食道狭窄——吐出が続く原因と、内視鏡バルーン拡張術
公開日:2026年9月
ごはんを食べた直後に、消化されていないものをそのまま戻してしまう——これは「嘔吐」ではなく「吐出」と呼ばれる、食道の通り道に問題があるサインのことがあります。原因のひとつが、食道の一部が狭くなる「食道狭窄」です。このページでは、食道狭窄がどのように見つかり、どう治療するのかをご説明します。
通常の食道(ピンク色)は、喉から胃まで均一な太さでまっすぐ通っています(模式図)。
食道狭窄が起きると、食道の途中がくびれて内腔が狭くなります(模式図)。
「嘔吐」と「吐出」は違います
嘔吐は胃の内容物が逆流するもので、吐く前に「オエッ」という前兆(えずき)を伴うことが多いのに対し、吐出は食べ物が食道までしか届かず、前触れなくストンと戻ってくるという違いがあります。吐出が続く、食べるのを怖がる、痩せてきた、といった様子があれば、食道自体に原因がある可能性を考えます。
食道狭窄は、食道の粘膜が何らかの理由で傷つき、治っていく過程で組織が硬く縮んでしまうことで起こります。海外の報告(犬20頭・猫8頭を調べた研究2)では、狭窄が見つかった動物の背景として次のようなものが多く見られたとされています。
- 麻酔をかける処置を最近受けていた(犬20頭中18頭、猫8頭中5頭)——全身麻酔中は胃酸が食道へ逆流しやすくなり、それによる炎症が狭窄につながることがあります
- 嘔吐を繰り返していた
- 抗菌薬(内服薬)を服用していた——特に猫では、錠剤が食道内に留まって粘膜を傷つける食道炎の原因になることが報告されています(この研究では猫3例でドキシサイクリンによる食道炎が疑われました)
- 猫では、消化管内の毛玉(トリコベゾア)があった
このほか、誤って飲み込んだ異物を内視鏡や手術で取り除いた後、傷が治る過程で瘢痕化して狭窄が残ることもあります1。ただし同じ研究の中でも、これらの要因が複数重なっている症例が多く、「これが原因」と単純に一つに絞れないことが多いとも指摘されています。
当院で診てきた症例でも、これといって典型的なパターンがあるわけではなく、症例ごとに事情が異なります。多くの場合、症状がある程度進んで悪化してから気づかれるため、はっきりした原因が分からないまま見つかることも少なくありません。
画像検査だけでは分からない——内視鏡検査の役割
レントゲンやバリウム検査で食道の通りが悪いことは疑えますが、狭くなっている場所の状態(炎症の程度、狭窄の長さや硬さ)を正確に把握するには、内視鏡でお腹の中を直接確認する必要があります。
内視鏡で確認した食道狭窄部。本来の内腔よりも通り道が狭くなっているのが分かります。
内視鏡であれば、狭窄の位置・長さ・粘膜の状態を直接目で見て確認できるため、この後の治療方針(拡張できる狭窄か、どの太さのバルーンから始めるか)を立てるうえでも重要な情報になります。
食道狭窄が見つかったら——内視鏡バルーン拡張術
治療の中心は、内視鏡を使ってバルーン(風船状の器具)を狭窄部に通し、その場で膨らませて内側から広げる「バルーン拡張術」です。海外の報告でも、犬・猫の食道狭窄に対する第一選択として広く行われています1。
内視鏡下でバルーンカテーテルを狭窄部に通し、その場で膨らませて広げます。
1回の処置で完全に治ることは少なく、当院では複数回に分けて治療するのが基本です。最初は小さめのバルーンから始め、食道の状態を見ながら少しずつ大きなバルーンに変えて、段階的に広げていきます。海外の報告でも、犬で中央値3回、猫で中央値4.5回程度の処置が必要だったとされています2。
一度に大きく広げようとすると、食道を傷つけたり穴が開いたりするリスクが高まるため、急がず段階を踏むことが安全な治療につながります。
施術後の経過
バルーン拡張後の食道内腔。治療前と比べて通り道が広がっています。
海外の報告では、バルーン拡張やブジー法によって「良好」とされる転帰が得られた割合は70〜88%とされていますが、この「良好」は完全に元通りになったという意味ではありません。吐き戻しなくドライフードを食べられるまで回復したのは、そのうちの14〜25%程度にとどまるとも報告されています4。
再発を繰り返す場合には、拡張ではなくステント(筒状の器具)を留置する方法が選択されることもあり、海外の報告ではステントに切り替えた症例の88%で長期的に良好な経過が得られたとされています1。当院では、まず拡張で経過を見ながら、必要に応じて次の一手をご相談する方針です。
- 食べた直後に、消化されていないものをそのまま吐き戻す(吐出)ことが続く
- 麻酔をかけた手術・処置の後から、食べ方がおかしくなった
- 異物を誤って飲み込み、内視鏡や手術で取り除いた後、様子がおかしい
- 食べることを怖がる、体重が落ちてきた
当院でのご相談
食道狭窄はそれほど頻度の高い病気ではありませんが、当院では内視鏡による診断からバルーン拡張術まで対応しています。吐出が続く、食べ方がおかしいといった様子があれば、まずは一度ご相談ください。
参考文献
- Da Riz F, et al. Outcome of dogs and cats with benign oesophageal strictures after balloon dilatation or stenting: 27 cases (2002-2019). J Small Anim Pract. 2021;62(10):886-894. DOI
- Bissett SA, et al. Risk factors and outcome of bougienage for treatment of benign esophageal strictures in dogs and cats: 28 cases (1995-2004). J Am Vet Med Assoc. 2009;235(7):844-850. DOI
- Tan DK, et al. Prospective evaluation of an indwelling esophageal balloon dilatation feeding tube for treatment of benign esophageal strictures in dogs and cats. J Vet Intern Med. 2018;32(2):693-700. DOI