犬・猫の肺腫瘍(肺がん)、手術という選択——胸腔鏡でできること
公開日: 2026年9月吉日 / 執筆・監修: クウ動物病院 動物内視鏡医療センター
肺腫瘍(肺がん)とは
肺にできる腫瘍には、肺そのものから発生した「原発性肺腫瘍」と、他の臓器のがんが肺へ広がった「転移性肺腫瘍」があります。犬・猫では転移性のほうが多く、原発性は比較的少ないとされています。
なお、腫瘍がすべて悪性(がん)というわけではありません。犬の原発性肺腫瘍340例を調べた報告では、悪性である肺癌が87.1%と大半を占めた一方、良性の腺腫も3.2%含まれていました(McPhetridge et al., 2021)。ただし実際には、画像で見つかった時点でどちらかを見分けることはできません。
手術の対象になるかどうかは、原発性か転移性かで大きく変わります。原発性で他に広がっていなければ、切除によって長期の経過が期待できる場合があります。一方、他の臓器のがんが肺に転移している場合は、肺だけを取っても解決にならないことがほとんどです。
どんな症状が出るのか
肺腫瘍では、次のような様子がみられることがあります。
- 咳が続く
- 呼吸が速い、苦しそうにしている
- 元気がない、疲れやすい
- 食欲が落ちた、体重が減った
ただし、進行するまで症状がまったく出ないことも珍しくありません。別の目的で撮ったレントゲンでたまたま見つかる、というケースもあります。後述しますが、この「症状が出る前に見つかったかどうか」が、特に猫では見通しを大きく分けます。
診断——画像だけでは確定しない
まず胸部レントゲン検査を行います。麻酔をかけずに実施できますが、ある程度の大きさにならないと写らないという限界があります。
より小さな病変を見つけるにはCT検査が有用で、腫瘍の位置や広がり、リンパ節の状態、他の肺葉に病変がないかまで確認できます。手術を検討する場合には、CTでの評価がほぼ必須です。ただしCTは全身麻酔が必要になります。
ここで大切なのは、画像で「見つける」ことと、それが何であるかを「確定する」ことは別だという点です。画像だけでは、腫瘍なのか炎症なのか、悪性なのか良性なのかまでは分かりません。確定診断には、針を刺して細胞を採る検査(細胞診)や、組織を採って調べる検査(生検)、あるいは手術で摘出したものを病理検査に出す、といった手順が必要になります。
手術という選択——犬の場合
原発性の肺腫瘍で、転移が確認されない段階であれば、腫瘍のある肺葉ごと切除する「肺葉摘出術」が選択肢になります。
犬89例を対象とした報告では、肺葉摘出術後の生存期間中央値は252日、1年生存率61%・2年47%・3年30%でした。そのなかで見通しを分けたのは、腫瘍の大きさとリンパ節への転移の有無です。腫瘍の最大径が5cm未満だった犬の生存期間中央値は717日だったのに対し、5cm以上では284日。リンパ節への転移がなかった犬は614日、転移があった犬は162日でした(Treggiari et al., 2025)。
つまり、小さいうちに、転移する前に見つけられるかどうかが結果を左右します。
なお、同じ報告での対象犬の年齢中央値は11歳でした。高齢であること自体が手術をあきらめる理由になるとは限りません。全身状態や麻酔のリスクとあわせて、個別に判断します。
猫の場合——症状が出ているかどうかで大きく違う
猫の原発性肺腫瘍は犬より少なく、まとまった報告も限られています。そのなかで、手術を受けた猫20例を調べた報告があります。
この報告での生存期間中央値は、全体では11日と厳しい数字でした。しかし内訳を見ると様相が異なります。診断された時点で症状が出ていなかった猫は578日、すでに症状が出ていた猫は4日と、極端に分かれていました。
また同じ報告では、抜糸の時期まで生存した猫にかぎると、生存期間中央値は64日でした。全体の11日という数字は、手術後ごく早い時期に亡くなった猫に強く引っ張られたものだと分かります。
胸水がある、転移がある、病理検査で分化度が低い、といった場合も見通しは厳しくなります(Maritato et al., 2014)。
また、すでに転移がある状態の猫34例に内科的な緩和治療を行った報告では、生存期間中央値は64日でした。こちらは手術を受けていない、より進行した段階の猫の数字であり、上記の「手術後64日」とは対象が異なるため単純に比較はできません。来院時の症状は咳が53%と最も多く、呼吸器症状が出ていること自体が、生存期間に影響する唯一の因子でした(Treggiari et al., 2021)。
これらが意味するのは、猫では「症状が出てから」では手遅れになりやすく、逆に症状が出る前に見つかった場合には手術で長い時間を得られる可能性があるということです。猫で肺に影が見つかった場合、手術を検討するのであれば、CTを含めた十分な検査で広がりを確認したうえで判断する必要があります。
胸腔鏡でできること
従来、胸の手術では肋骨の間を大きく切開する開胸手術が必要でした。当院では、胸腔鏡(内視鏡)を用いた肺葉摘出術に対応しています。小さな傷から器具を入れて手術を進めるため、体への負担を抑えることができます。
気になるのは「傷が小さいぶん、がんの手術として不利にならないか」という点だと思います。胸腔鏡で肺葉摘出を行った犬13例(腫瘍径2.2〜7cm)の報告があります。このうち切除断端がきれいだった9例と、条件をそろえた開胸手術の9例を比較したところ、2年生存率は胸腔鏡44%・開胸56%で、統計学的な差は認められませんでした(Bleakley et al., 2015)。なお13例のうち3例は、視野が十分に確保できず開胸手術へ移行しています。
一方で、すべての症例が胸腔鏡で完了できるわけではありません。小さな開胸を併用する「胸腔鏡補助下」で肺葉摘出を行った犬30例の報告では、30例中6例が開胸手術へ移行しました。理由は、癒着が2例、小さな切開創から病変を操作しづらかったものが2例、術中に血液中の酸素が下がったものが1例です。一方で退院までの時間は中央値47時間と短く、30例中29例が退院しています(Scott et al., 2022)。
腫瘍の大きさや位置、癒着の程度によっては、はじめから開胸を選ぶこともあります。検査の結果をふまえて、どちらが適しているかをご相談のうえ決定します。
トロッカー(器具を出し入れするための筒)は、病変の位置や体格に応じて3〜5箇所に設置します。手術時間は、腫瘍の大きさや位置、癒着の程度によって異なりますが、目安としておおよそ60〜120分程度です。
小型犬・猫の場合——胸腔鏡補助下手術(VATS)という方法
体が小さい動物では胸の中の空間が狭く、胸腔鏡だけで肺葉を扱うのが技術的に難しくなることがあります。そうした場合には、胸腔鏡での観察に小さな開胸を組み合わせる「胸腔鏡補助下手術(VATS)」を選ぶことがあります。胸を大きく開ける従来の開胸手術に比べれば傷は小さく抑えられ、胸腔鏡だけでは難しい操作にも対応できます。
先ほどの犬30例の報告もこの胸腔鏡補助下の方法によるもので、体格の小さな動物や、病変が大きい場合の選択肢として位置づけられています(Scott et al., 2022)。
当院では猫の肺葉摘出術も行っており、状況に応じて胸腔鏡と胸腔鏡補助下手術を使い分けています。
術後経過
入院期間の目安は1〜3日です。全身状態や術後の経過によって変わりますので、経過を見ながらご相談します。
手術費用について
手術費用は、腫瘍の大きさや位置、開胸手術へ移行するかどうか、入院日数など、その時の状況によって変わります。診察と検査の結果をふまえて、手術前に必ずお見積りをご提示します。おおよその費用感については、ご来院前でもお電話やサイト内のAIチャットでお答えできますので、お気軽にお尋ねください。
ペット保険をご利用いただけます。本手術はペット保険の補償対象となります。ただし、補償割合や手術1回あたりの限度額はご加入のプランによって異なり、費用の全額が補償されるとは限りません。実際にどのくらいご負担いただくことになりそうかは、お見積りの際にあわせてご説明します。
また、アニコム損保・アイペット損保にご加入の場合は窓口精算に対応しています。お支払いの時点で保険が適用されるため、いったん全額を立て替えて後日ご請求いただく必要はありません。ご来院の際は保険証をお持ちください。
当院の対応
大阪市鶴見区のクウ動物病院 動物内視鏡医療センターでは、胸部レントゲン・CTによる評価から、胸腔鏡による肺葉摘出術まで対応しています。他院で肺に影を指摘された、手術ができるかどうか知りたい、という場合もご相談ください。
早期発見のすすめ
肺腫瘍は、犬でも猫でも小さいうちに、症状が出る前に見つけられたかどうかが結果を大きく左右します。ところが症状が出にくいため、見つかったときにはすでに進んでいることが少なくありません。
高齢になってからの健康診断で胸部レントゲンを撮っておくこと、また他の病気の検査で肺に影を指摘されたときに、様子見にせず精査を検討することが、結果的に選べる治療の幅を広げます。
参考文献
- McPhetridge JB, Scharf VF, Regier PJ, et al. (2021) J Am Vet Med Assoc 260(2):234-243. 犬の原発性肺腫瘍340例の組織型分布と転帰。論文はこちら
- Treggiari E, Romanelli G, Valenti P, et al. (2025) J Small Anim Pract 66(9):654-664. 犬89例の原発性肺癌に対する肺葉摘出術と補助療法の評価。腫瘍径・リンパ節転移と生存期間。論文はこちら
- Bleakley S, Duncan CG, Monnet E. (2015) Vet Surg 44(8):1029-35. 犬13例の胸腔鏡下肺葉摘出術と、開胸手術との長期転帰の比較。論文はこちら
- Scott JE, Auzenne DA, Massari F, et al. (2022) Vet Surg 52(1):106-115. 犬30例の胸腔鏡補助下肺葉摘出術における合併症と転帰。論文はこちら
- Maritato KC, Schertel ER, Kennedy SC, et al. (2014) J Feline Med Surg 16(12):979-84. 外科的に治療した猫20例の原発性肺腫瘍における転帰と予後因子。論文はこちら
- Treggiari E, Pellin MA, Valenti P, et al. (2021) J Small Anim Pract 62(11):992-1000. 転移を有する猫の原発性肺癌に対する緩和治療の忍容性と転帰。論文はこちら
当院でのご相談
肺に影を指摘された、手術という選択があるのか知りたい、という場合はご相談ください。検査の結果をもとに、手術が適しているかどうかを含めてご説明します。
はじめてご来院の方は 初診の患者さんへのご案内 もあわせてご覧ください。初診問診票を事前にご記入いただくと、当日の受付がスムーズです。