猫の前庭疾患(ふらつき)の原因と、内視鏡(耳鏡)検査でわかること
公開日: 2026年8月吉日 / 執筆・監修: クウ動物病院 動物内視鏡医療センター
猫のふらつき、その原因は「耳」かもしれません
「まっすぐ歩けずふらつく」「頭が傾いている」「目が左右にゆらゆら動いている(眼振)」——こうした様子が急に見られると、飼い主さんはとても驚かれると思います。これらは前庭疾患と呼ばれる、体のバランスを保つしくみ(前庭系)に異常が起きているサインであることが多い症状です。
前庭疾患というと「高齢の猫に突然起こり、原因がはっきりしないまま自然に良くなることが多い」というイメージを持たれている方も多いのですが、実は中耳炎や耳のポリープといった、耳の病気が原因になっているケースも少なくありません。このページでは、耳の病気が前庭症状を引き起こすしくみと、内視鏡(耳鏡)による検査・治療で何がわかり、何ができるのかを解説します。
- 症状が急激に悪化していく、または左右で症状の側が変わる
- ぐったりして意識がはっきりしない
- けいれんを伴う
- 顔面の麻痺(まぶたが閉じない、口角が下がる等)を伴う
これらは耳だけでなく脳そのものに原因がある(中枢性の)前庭疾患を疑う所見です。様子見をせず早めにご相談ください。
前庭疾患の原因になる「耳」の病気
バランス感覚を司る前庭系は、脳に近い内耳の中にあります。そのため、内耳のすぐ手前にある中耳(鼓膜の奥にある空間)で炎症が起こると、その影響が内耳の前庭系にまで及び、ふらつきや眼振といった症状につながることがあります。中耳の病気の中でも、特に次の2つが前庭症状の原因としてよく見られます。
中耳炎(内耳炎を含む)
- 外耳炎が慢性化して鼓膜の奥まで炎症が波及したり、細菌感染が起こることで発症
- 中耳に炎症や液体が溜まった状態が続くと、隣接する内耳にも影響が及ぶことがある
- 片側性の頭の傾き・顔面神経麻痺やホルネル症候群(瞳孔が小さくなる、まぶたが下がる等)を伴うこともある
耳の炎症性ポリープ
- 中耳や耳管の粘膜から発生する良性のできもので、猫に比較的多く見られる
- 大きくなると外耳道の奥をふさいだり、中耳の炎症を長引かせたりする原因になる
- できる場所によっては、これも前庭症状や顔面神経麻痺の原因になりうる
これらはいずれも、外からの見た目だけでは中の状態がわかりにくいのが特徴です。次にご説明する内視鏡(耳鏡)検査は、この「奥の見えにくさ」を解消するための手段です。
通常の診察では届かない部分を、内視鏡(耳鏡)で確認
猫の耳道は奥に向かってカーブしており、その先に鼓膜があります。通常の診察や一般的な耳鏡だけでは、鼓膜やその奥の中耳の状態まで十分に見えないことが少なくありません。
当院では、必要に応じて鎮静下でビデオ内視鏡(耳鏡)を用い、耳道の奥から鼓膜の状態、そして鼓膜越しに中耳内の様子(液体の貯留やポリープの有無)まで直接観察します。炎症や化膿が見つかった場合には、そのまま洗浄を行うことも可能です。
下の図は耳の断面を模式的に示したものです。内視鏡は外耳道を通って鼓膜のところまで届き(オレンジ色の範囲)、鼓膜を通して中耳の状態を観察できます。炎症や液体貯留が見つかった場合は、鼓膜の一部を切開して排膿・洗浄することもあります。中耳のすぐ奥にある内耳には前庭系(バランス感覚)が収まっており、中耳の炎症が波及すると、ふらつきなどの前庭症状につながります。
図中の番号
1耳介(外から見える耳)
2鼓膜
3中耳(鼓室胞、中隔で2室に分かれる)
4内耳(三半規管・蝸牛)—前庭系はここ
5脳(脳幹)
6オレンジの範囲=内視鏡(耳鏡)が届く外耳道
写真: 中耳炎により穿孔した鼓膜の内視鏡所見(当院症例)。
その他の内視鏡(耳鏡)所見の症例写真はこちらでもご紹介しています。
内視鏡を使った治療のメリット
耳のポリープや中耳炎は、内視鏡を使うことで、開頭や大掛かりな手術を避けながら治療できる場合があります。海外の報告では、次のような結果が示されています。
耳のポリープ:内視鏡下経鼓膜牽引術(PTT)
猫37頭を対象とした症例レビューでは、内視鏡下でポリープを引き抜く経鼓膜牽引術(PTT)により94%でポリープが解消しました。神経学的な合併症(顔面神経麻痺など)の発生率もPTTでは8%と、開頭手術などの他の治療法(57〜81%)に比べて大幅に低く抑えられています(Greci et al., 2014)。
中耳炎:ビデオ耳鏡ガイド下の洗浄・開窓術
猫31頭(44耳)を対象とした報告では、ビデオ耳鏡でガイドしながら鼓室胞の中隔を開窓し中耳を洗浄する方法で、88.6%(39/44耳)が安定した寛解に至りました。ただし16耳で再発が見られており、内視鏡的な処置がすべてのケースで根治的というわけではなく、内科治療と組み合わせた補助的な位置づけになることもあります(Osumi et al., 2025)。
いずれの報告も、内視鏡を使うことで体への負担を抑えながら、直接観察・処置できるという利点を示しています。一方で、症状の程度や病変の場所によっては内視鏡だけで対応しきれない場合もあり、検査結果を踏まえて治療方針を個別にご相談することになります。
当院でのご相談
猫がふらついている、頭が傾いている、目の動きがおかしい、といった症状があれば、まずはご相談ください。診察のうえで、内視鏡(耳鏡)検査が必要かどうかも含めて、一緒に検討していきましょう。
はじめてご来院の方は 初診の患者さんへのご案内 もあわせてご覧ください。初診問診票を事前にご記入いただくと、当日の受付がスムーズです。