潜在精巣の手術、お腹を大きく切るのが心配な方へ——腹腔鏡という選択肢
公開日:2026年9月
潜在精巣(陰睾)と診断され、去勢とあわせて摘出を勧められた——手術自体は必要だと分かっていても、「お腹を切って中を探す」と聞くと、不安になる方は少なくありません。陰睾という病気そのものについてはこちらのページで解説していますが、このページでは、その不安に具体的にお答えします。
不安の正体は「見つからないと、傷が大きくなる」ことです
従来のやり方では、卵巣摘出術と同じように数センチの切開を行い、目と手で探しながら精巣を摘出します。残ってしまった精巣は発育が悪く、数mm程度しかないことも珍しくありません。
超音波検査でも体の中に見つけられないほど小さい場合、切開しても見つからず、股の部分をさらに大きく切開して探すことになります。「切ってみないと、どれだけ傷が大きくなるか分からない」というのが、この不安の正体です。
腹腔鏡なら、切る前にお腹の中を見て探せます
当院の実感としては、超音波などの画像検査で見つからない場合でも、内視鏡(腹腔鏡)を使えば探すことができます。お腹の中にカメラを直接入れて確認するため、切って探すのではなく、見て探すことができるためです。
当院で行っている腹腔鏡下の手術では、3〜5mmほどの小さな傷を2〜3ヶ所あけ、お腹の中にカメラを入れて精巣の位置を直接確認しながら摘出します。精巣が腎臓の近くにある場合も、鼠径輪(精巣が体外へ出ていく場所)の手前で止まっている場合も、カメラで直接確認できます。鼠径輪を出てすぐで止まっている場合は、大きく切開して探さなくても、精巣につながる管(精管)を内視鏡下でたどることで、先端の精巣の位置を特定できます。
腹腔鏡で確認した腹腔内の精巣。切る前に、この状態を直接見ることができます。
「見つからないから切開を広げる」のではなく、「見えているところに、必要な分だけ小さく切る」——これが従来法との一番の違いです。
- 去勢を考えているが、片方(または両方)の精巣が触れない
- 超音波検査でも精巣の位置が確認できないと言われた
- 精巣が大きくなっている、腫瘍を疑うと言われて手術を検討している
- 小型犬で、なるべく小さな傷で手術を受けさせたい
正直なところ、腹腔鏡にも限界があります
腹腔鏡手術が万能というわけではありません。海外の報告(David et al., 2024、犬14頭・19精巣が対象)では、手術中に出血などのトラブルが起きた場合、その場で判断して開腹手術に切り替えることがあるとされています。この報告では14頭中1頭(7%)で精巣の血管からの出血があり、視野の確保が難しくなったため開腹に切り替えられましたが、その犬も無事に回復し、同じ日のうちに退院しています。それ以外の13頭(19精巣中17精巣)は、腹腔鏡のみで手術を終えられています。
つまり、「腹腔鏡で始めても、状況によっては安全のために開腹に切り替えることがある」というのが正直なところです。ただし、それも含めて重大なトラブルの発生自体は多くなく、多くの場合は小さな傷のまま手術を終えられます。
精巣が既に腫瘍になっている場合は
お腹の中に残った精巣は将来的に腫瘍化するリスクが高いことが知られており、検査の時点で既に腫瘍ができていることもあります。健康診断や超音波検査で精巣が大きくなっている、性ホルモンの影響と思われる症状があるなど、「腫瘍を疑って」手術を勧められる場合もあります。この場合、大きく切って確実に取り出すべきではないかと不安になる方もいらっしゃると思います。
海外の症例報告では、精巣腫瘍(Sertoli細胞腫)と精巣捻転を合併した犬でも、臍からの単孔式腹腔鏡で摘出できたと報告されています。摘出した精巣は、腫瘍細胞がお腹の壁に広がらないよう、専用の回収袋に入れてから体外に取り出す工夫がされていました。
ただし、腫瘍化した精巣を対象にした報告はまだ多くなく、腫瘍の大きさや周囲への広がり方によっては、腹腔鏡ではなく開腹での摘出が選ばれることもあります。この点は、検査の結果を見ながら個別に判断することになります。
手術時間の目安
同じ報告(David et al., 2024)では、腹腔鏡による潜在精巣摘出術の手術時間は、片側性で中央値17分、両側性で中央値27分とされています。当院は2〜3ヶ所のポートを使う方式のため、この報告(単一ポートの手技)と手技は同一ではありませんが、同じく低侵襲な腹腔鏡下手術として、手術の負担の目安としてご参考ください。