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クウ動物病院 動物内視鏡医療センター  TEL: 06-6967-8668
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外科 #腹腔鏡下避妊手術 #犬 #発情・偽妊娠

犬の避妊手術、発情中・偽妊娠中は避けるべき?——通説と根拠

公開日: 2026年10月吉日 / 執筆・監修: クウ動物病院 動物内視鏡医療センター

結論

「発情中は避ける」「偽妊娠中は避ける」と言われる犬の避妊手術について、根拠から整理した結論です。

  • 「発情中は出血や感染が増える」ことを確かめた研究は、調べた範囲で見つかりませんでした。
  • 発情中だからという理由だけで、手術ができないということはありません。出血の心配は主に開腹手術を想定したもので、卵巣のまわりを拡大して見ながら進められる腹腔鏡下手術なら、なおさら心配は小さいと当院は考えています
  • 避けたほうがよい時期は、あるかもしれません。発情が終わってしばらくの時期です。ただし外見では見分けにくく、一般的には「落ち着いたころ」が目安になります
  • 偽妊娠のサインがあれば、まず数週間は様子をみます。長引くときは相談を

迷ったときは、その子の状態を診察で見たうえで、一緒に決めましょう。

通説と根拠を並べると

通説ごとに、根拠がどこまであるかを並べます。詳しい内容は、このあとの各章で説明します。

通説 根拠の強さ 中身
発情中は出血が増える 薄い 血管が発達するという推測が土台で、主に開腹手術を想定した話(当院の見方)。発情中の犬で出血を比べた研究は見つからず
発情中は感染が増える 薄い 発情中の犬で感染を比べた報告は見つからず
発情が終わってしばらくの時期は避けたほうがよい 一定の裏づけあり 術後に行動の記録が多かった報告と、素質のある犬で偽妊娠が誘発された実験がある。ただし外見で時期を見分けにくい

発情と偽妊娠、見た目はどう違うか

発情と偽妊娠は、どちらも「いつもと違う」様子として気づかれます。見た目の目安をお示しします。個体差が大きく、見た目だけで診断することはできません。

発情のとき

  • 外陰部が腫れます
  • 血の混じった分泌物が出ます。はじめは赤く、時期が進むにつれて、量や色が薄くなっていきます
発情中の犬と、分泌物の色の変化を示すイラスト

※イメージ図です。分泌物は、赤い色から次第に薄い色へ変わっていきます

偽妊娠のとき

  • 発情が終わってから、およそ6〜8週間後ごろにあらわれることが多いです(Rootら, 2018)
  • 乳腺が張り、乳汁が出ることもあります
  • 巣作りをして、ぬいぐるみなどを抱えて世話をします
  • 落ち着きがない、食欲が落ちる、元気がない、性格が変わる、といった様子もみられます(Merck Veterinary Manual)
偽妊娠で乳腺がふくらんだ犬と、巣でぬいぐるみを抱く犬のイラスト

※イメージ図です

乳腺が赤い、熱をもっている、触ると痛がる、または元気や食欲が大きく落ちているときは、偽妊娠だけとは限りません。早めに診察を受けてください。

発情中の手術:根拠が薄い部分

「発情中は出血しやすい」と言われるのは、発情中はホルモンの影響で、子宮や卵巣のまわりの血管が発達するためと考えられてきたからです(Moxonら, 2026)。ただしこれは体のしくみからの推測で、発情中の犬で手術中の出血を実際に比べた研究は、開腹・腹腔鏡を問わず、調べた範囲では見つかりませんでした。また、この心配は主に、お腹を切って行う開腹手術を想定して語られてきたものだと当院は考えています。

犬2,543頭を手術の時期ごとに比べた報告では、時期によって手術中の出血に差はみられませんでした(Moxonら, 2026)。ただし発情中の犬は含まれていません。腹腔鏡で手術した犬103頭の小規模な報告では、発情中の犬でも手術時間は長くなりませんでした(Van Goethemら, 2003)。「感染が増える」という話についても、発情中の犬で比べた報告は見つかりませんでした。

出血は、発情中かどうかに関係なく、どの手術でも一定の割合で起こりうるものです。大切なのは、血管をよく見て丁寧に処理できるか、そして出血が起きたときにすぐ見つけて止められるかです。開腹手術では、お腹の奥にある卵巣を傷口まで引き出して血管を処理するため、手元が見えにくい場面があります。腹腔鏡手術では、卵巣を引き出さずに、お腹の中で拡大した映像を見ながら血管を処理できます。万一出血があっても、その場所を映像で確かめながら、すぐに止血できます。先の103頭の報告でも、卵巣まわりの出血は手術中に処置されています(Van Goethemら, 2003)。

当院でも、発情中だからという理由だけで手術をお断りすることはありません。腹腔鏡下手術で発情中に出血や感染が問題になることはほとんどなく、特別な検査を加えることもありません。通常どおり事前の診察と血液検査で、全身麻酔をかけられる状態かを確認します。

なお、時期を待つのは長く受け継がれてきた標準的な助言で、かかりつけの先生が待つ方針をとっておられるなら、それも多くの犬で妥当な判断です。ここでお伝えしたいのは、「待たなければならない」と言い切れるほどの根拠はない場面も多い、ということです。

避けたほうがよい時期は、あるかもしれない

一方で、通説には同意できる部分もあります。発情が終わってしばらくの時期の手術です。

犬2,543頭の報告では、排卵からおよそ1.5〜3か月の時期に手術した犬で、術後に不安や攻撃性などの行動の記録が多くみられました(Moxonら, 2026)。また小規模な実験では、偽妊娠になりやすい素質のある犬が、発情の始まりからおよそ1か月前後の時期の手術をきっかけに、偽妊娠の症状を示しました(Gobelloら, 2001)。どの犬にも起こるわけではありませんが、この時期を避ける考え方には一定の裏づけがあります。

ただし、いまその時期にいるのかを外見だけで見分けるのは、多くの場合難しいのが現実です。そのため目安としては、発情の出血や、その後の乳腺の張り、行動の変化が一般的に落ち着いたころ、というお伝え方になります。

迷ったときの指針

場面ごとに整理します。

① 手術の予定があり、発情が始まった

発情が始まったという理由だけで、手術ができなくなるわけではありません。診察と血液検査で全身の状態を確認したうえで、予定どおり進めるかを判断します。発情が始まったことは、診察のときにお知らせください。

② 手術の予定はなく、発情が来た

慌てて来院される必要はありません。発情が終わってから、手術の時期をご相談にいらしてください。発情中は出血もありますので、まず落ち着いてから、ゆっくり相談する形をお勧めしています。

③ 偽妊娠のサインがある

まず数週間は、様子をみてください。サインは発情のおよそ6〜8週間後ごろに出やすく、乳腺の張り、乳汁、ぬいぐるみを抱える、巣作り、性格の変化などがみられます(Rootら, 2018)。多くは治療をしなくても自然に落ち着きます(Merck Veterinary Manual)。

英国の獣医師へのアンケートでも、手術の予定がある犬に偽妊娠の症状があれば、ほとんど(96%)が落ち着くまで手術を延期すると答えています(Rootら, 2018)。当院でも、軽い症状であれば、しばらく様子をみてから手術の時期を決めます。乳汁が出ていても、搾ると分泌を刺激してしまうため、搾らずに様子をみてください(Merck Veterinary Manual)。

④ 偽妊娠が長く続く

症状が強い場合や、4週間以上続く場合は、ご相談ください。4週間は、治療を考える目安として挙げられている期間です(Rootら, 2018)。症状が本当に偽妊娠によるものかを診察で確認したうえで、次の2つを検討します。

  • ホルモンを抑える薬による治療。乳汁や行動の変化のもとになるホルモンを抑え、いま出ている症状をやわらげます。通常は5〜6日ほどの投与です(Rootら, 2018)
  • 避妊手術。卵巣を取って発情のサイクルそのものをなくし、次の発情のあとに偽妊娠を繰り返すことを防ぎます

薬は「いまの症状」への対処、手術は「これからの繰り返し」を防ぐもの、と目的が違います。手術のあとに症状が続いた犬に、薬で治療した報告もあります(Harveyら, 1999)。症状があるからといって、手術を無期限に先延ばしするしかないわけではありません。

こんな場合はご相談ください
  • 手術の予定があるのに、発情が始まった
  • 乳腺の張りや乳汁、行動の変化が強い、または4週間以上続いている
  • 偽妊娠のような様子を、発情のたびに繰り返している
  • いつ手術を受ければよいのか分からない

発情中という理由だけで、手術をお断りすることはありません。偽妊娠のサインがある場合は、診察で様子を確認したうえで時期をご提案します。

避妊手術の時期そのものについては、犬の避妊手術は必要?「しない方がいい」説と、手術時期の考え方もあわせてご覧ください。見るべきは月齢や犬種だけではなく、その子の成長や状態です。どちらのタイプかは、診察でご一緒に考えます。

参考文献

  • Moxon R, England GCW. (2026) Front Vet Sci 13:1774042. 発情周期のさまざまな時期に不妊化した雌犬の合併症と偽妊娠に関する後ろ向き研究。論文はこちら
  • Van Goethem BEBJ, Rosenveldt KW, Kirpensteijn J. (2003) Vet Surg 32(5):464-470. 犬の腹腔鏡下卵巣摘出術におけるモノポーラとバイポーラ電気凝固の比較。論文はこちら
  • Gobello C, et al. (2001) J Reprod Fertil Suppl 57:55-60. 黄体期の卵巣摘出:犬の偽妊娠の発症におけるプロゲステロンの役割を調べるモデル。論文はこちら
  • Root AL, et al. (2018) BMC Vet Res 14:170. 犬の偽妊娠の有病率と英国での治療方針に関する獣医師アンケート。論文はこちら
  • Scully CM. Merck Veterinary Manual. Pseudopregnancy in Small Animals. ページはこちら
  • Harvey MJA, et al. (1999) Vet Rec 144(16):433-436. 犬の偽妊娠の病因とカベルゴリン治療の効果。論文はこちら

当院でのご相談

「いま発情中だけれど受けられるのか」「偽妊娠のような様子があるけれど待つべきか」といったご相談は、診察としてお受けしています。実際に診させていただいたうえで、その子に合った時期と方法をご提案します。

はじめてご来院の方は 初診の患者さんへのご案内 もあわせてご覧ください。初診問診票を事前にご記入いただくと、当日の受付がスムーズです。

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