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クウ動物病院 動物内視鏡医療センター  TEL: 06-6967-8668
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外科 #脾臓腫瘤 #脾臓摘出術 #腹腔鏡

犬の腹腔鏡下脾臓摘出術(脾臓の腫瘤に対する低侵襲手術)

情報更新: 2026年9月現在 / 執筆・監修: クウ動物病院 動物内視鏡医療センター

健康診断や別の検査で受けた超音波検査で、「脾臓にしこり(腫瘤)がある」と言われた——その場では良性か悪性かが分からないまま、手術に踏み切るかどうかで迷っている飼い主さんは少なくありません。

当院では、条件が合えば腹腔鏡による脾臓摘出術に対応しています。このページでは、破裂する前に手術を考える意味、どんな場合に腹腔鏡が使えるのか、実際にどのように行うのかを、報告されているデータとあわせてご説明します。

犬の腹腔内における脾臓の位置を示す解剖模式図

脾臓は胃の左側に沿ってある、細長く動きやすい臓器です(模式図)。

破裂する前に考える意味

脾臓の腫瘤でもっとも避けたいのは、破裂してお腹の中で出血する(血腹)状態です。突然ぐったりする、歯茎が白くなる、お腹が張ってくる——こうなると緊急の開腹手術が必要になり、輸血を要することも少なくありません。

そして、破裂してから見つかった場合と、その前に見つかった場合とでは、診断の内訳が大きく異なることが報告されています。

見つかった状況 悪性だった割合 悪性のうち血管肉腫
破裂して血腹を起こしてから受診(犬1,150頭) 73.0% 87.3%
破裂する前に偶然見つかった(犬105頭) 29.5% 58.3%

いずれも海外の報告(Schick & Grimes, 2022 / Cleveland & Casale, 2016)。当院の実測データではありません。

これは「早く見つければ良性に変わる」という意味ではありません。血管肉腫という腫瘍が、血管に富んでもろく、自然に出血・破裂しやすい性質を持っているため、破裂して運び込まれる犬の集団にはこの腫瘍が多く含まれる、という関係です。

逆に言えば、まだ破裂していない段階で見つかったしこりは、良性である可能性の方が高いということでもあります。ただし残りの約3割は悪性で、その中には「今はまだ破裂していないだけ」のものも含まれます。破裂を待つほど、選べる手段は少なくなります。

腹腔鏡下脾臓摘出術の適応

腹腔鏡が使えるかどうかは、しこりの大きさそのものではなく、その子の体格(体重)との相対的な関係で判断します。同じ5cmの腫瘤でも、体重30kgの犬と5kgの犬とでは意味がまったく違うためです。

この考え方は文献とも一致しています。犬136頭を対象とした海外の多施設研究では、腫瘤の大きさが体重1kgあたり55.2cm³までであれば腹腔鏡補助下での摘出を検討できるとされており、絶対的な大きさではなく体重あたりの量で線が引かれています(McGaffey et al., 2024)。

腫瘤が体格に対して大きすぎる場合は、取り出すための切開が結局大きくなり、腹腔鏡の利点である「傷が小さい」というメリットが薄れます。その場合は最初から開腹で行う方が、手術時間も体への負担も少なく済むことがあります。

すでに破裂して血腹を起こしている場合は、腹腔鏡の適応ではありません。出血を一刻も早く止める必要があり、緊急の開腹手術になります。先ほどのデータで「破裂前に考える意味」をお伝えしたのは、このためでもあります。

こんな場合はご相談ください
  • 健康診断や別の検査で、脾臓にしこり(腫瘤)があると言われた
  • 「様子を見ましょう」と言われたが、このまま放置してよいか迷っている
  • 摘出を勧められたが、大きく開腹する手術には抵抗がある
  • しこりが少しずつ大きくなっていると言われた

急にぐったりした、歯茎が白い、お腹が張ってきた——これらは破裂のサインです。様子を見ずにすぐ受診してください。

手術の方法

当院では3ヶ所のポート(小さな筒状の器具の出入り口)を使って行います。カメラと器具を入れてお腹の中を確認しながら、脾臓につながる血管を処理していきます。3ヶ所のうち1ヶ所は、最後に摘出した脾臓を取り出すために使います。

脾臓には太い血管が何本も出入りしているため、血管の処理が手術の要になります。当院では電気による血管シーリング、または超音波と電気を組み合わせたハイブリッドのシステムを、血管の太さに応じて使い分けています。糸で1本ずつ結紮していく従来のやり方に比べ、確実性と時間の両面で利点があります。

摘出した脾臓の取り出し方は大きさによって変わります。小さければ専用の回収バッグに入れて取り出し、お腹の中を汚さずに回収できます。大きい場合は、ポートの傷を少し広げて直接取り出します。この場合、傷は回収バッグを使う場合より大きくなります——腹腔鏡でも「まったく切らない」わけではない、という点は正直にお伝えしておきます。

開腹手術との違い

従来の開腹手術では、みぞおちから下腹部にかけて大きく切開し、脾臓を体の外に出した状態で血管を処理します。視野が広く、出血にもすぐ対応できるため、破裂している場合や、腫瘤が非常に大きい場合には開腹の方が適しています。

一方の腹腔鏡は、小さな傷で済むかわりに、扱える腫瘤の大きさに制約があります。また、手術の途中で出血や癒着が見つかった場合には、安全を優先して開腹に切り替えることがあります。犬136頭の報告では、この切り替えは5.9%(8頭)に起こっています(McGaffey et al., 2024)。

なお、犬において「腹腔鏡の方が開腹より優れている」ことを直接比較して示した研究は、現時点ではありません。当院が腹腔鏡を選択肢として提示しているのは、条件が合う症例では傷が小さく済み、お腹の中を拡大して観察できるという利点があるためで、すべての症例で開腹に勝るという意味ではありません。

報告されている成績とリスク

腹腔鏡補助下で脾臓摘出術を行った犬136頭の多施設研究では、次のような結果が報告されています(McGaffey et al., 2024)。血腹を起こしていない、つまり破裂前の症例が対象です。

  • 手術時間は中央値47分
  • 術後の入院は中央値28時間
  • 開腹手術への切り替えは5.9%(8/136頭)
  • 合併症は78頭で認められたが、すべて軽度(グレード2以下)で重大なものはなかった
  • 136頭中135頭が生存退院(1頭は術後に門脈血栓が疑われ死亡)

これは海外の報告であり、当院の実績ではありません。また、こうした数字は条件の合った症例を選んで手術した結果であることにもご留意ください。どの子にも同じように当てはまるものではなく、実際の見通しは検査結果をもとに個別にご説明します。

摘出してはじめて診断がつく、という構造

脾臓の腫瘤で難しいのは、手術の前に良性か悪性かを確定できないことです。超音波やCTは「どこに、どれくらいの大きさで」は教えてくれますが、性質までは分かりません。

針を刺して細胞を採る検査(細胞診)もありますが、脾臓のしこりでは細胞診と摘出後の病理検査が一致したのは55〜67%にとどまるという報告があります(Aluisio et al., 2026)。特に「非腫瘍性(良性)」という細胞診の結果は、悪性を否定しきれません。

また、大きいから悪性、とも限りません。犬65頭の報告では、むしろ良性のしこりの方が脾臓に対する体積の割合が大きかったという結果が出ています(Mallinckrodt & Gottfried, 2011)。大きさだけで判断はできないということです。

正常な脾臓としこり(腫瘤)ができた脾臓の比較模式図

正常な脾臓(左)と、しこりができた脾臓(右)のイメージ。見た目や大きさだけで良性・悪性は判断できません。

そのため脾臓の手術は、治療であると同時に、確定診断のための検査でもあるという性格を持ちます。摘出した脾臓は病理検査に出し、良性か悪性か、悪性ならどの種類かをはっきりさせたうえで、その後の方針をご相談します。

手術費用について

脾臓摘出術の費用は、体重、術式(腹腔鏡か開腹か)、術前検査の内容、入院日数、他の処置を同時に行うかどうかによって変わります。一般に必要になるのは、術前の血液検査・画像検査、麻酔と手術、入院、術後の投薬、そして摘出した脾臓の病理検査です。

検査結果を拝見したうえで、何が必要で何が費用に含まれるかを事前にご説明します。ご不明な点は遠慮なくおたずねください。

よくあるご質問

Q. 脾臓を摘出して、その後の生活は大丈夫ですか?

脾臓は血液を蓄えたり、古くなった赤血球を処理したりする臓器ですが、摘出後はその働きを肝臓や骨髄などが補うため、日常生活に大きな支障が出ることは多くありません。犬では脾臓を全摘出する手術は以前から広く行われています。

Q. 手術の途中で開腹に変わることはありますか?

あります。出血や癒着で安全に進められないと判断した場合は、途中で開腹に切り替えます。海外の報告では5.9%で切り替えが行われています。あらかじめその可能性も含めてご説明したうえで手術に臨みます。

Q. 小型犬でも腹腔鏡でできますか?

体格が小さいほど、しこりが相対的に大きくなりやすく、腹腔鏡の利点が出にくくなります。実際、単孔式(ポート1ヶ所)の報告では体重が重い方が開腹へ移行しやすいという結果も出ており、体格と腫瘤の関係は一律ではありません。その子の体格と腫瘤の大きさを見たうえで、腹腔鏡が向いているかを個別に判断します。

当院の腹腔鏡下脾臓摘出術について
  • 3ポートで行い、うち1ヶ所を摘出した脾臓の取り出しに使います
  • 血管の処理には電気シーリング、または超音波と電気のハイブリッドシステムを、血管の太さに応じて使い分けています
  • 適応は体格(体重)と腫瘤の大きさの関係から individual に判断し、腹腔鏡が向かない場合は開腹をご提案します
  • 摘出した脾臓は必ず病理検査に出し、結果をもとに その後の方針をご相談します

参考文献

  • McGaffey MES, et al. (2024) J Am Vet Med Assoc 260(11):1309-1315. 犬136頭の腹腔鏡補助下脾臓摘出術の合併症と成績(多施設)。論文はこちら
  • Schick AR, Grimes JA. (2022) J Am Vet Med Assoc 261(1):69-73. 破裂した脾臓腫瘤による血腹の犬1,150頭における「二重の三分の二の法則」の検証(システマティックレビュー)。論文はこちら
  • Cleveland MJ, Casale S. (2016) J Am Vet Med Assoc 248(11):1267-1273. 偶発的に発見された非破裂性の脾臓腫瘤に対する脾摘出105例の悪性率と経過。論文はこちら
  • Aluisio MF, et al. (2026) J Am Vet Med Assoc. 犬の脾臓腫瘤における細胞診と組織病理診断の一致度。論文はこちら
  • Mallinckrodt MJ, Gottfried SD. (2011) J Am Vet Med Assoc 239(10):1325-1327. 悪性・良性の脾臓腫瘤における腫瘤/脾臓体積比と体重あたりの脾臓重量の比較。論文はこちら
  • Shaver SL, et al. (2014) Vet Surg 44(Suppl 1):71-75. 犬10頭における多孔式(3〜4ポート)腹腔鏡下脾臓摘出術の短期成績。論文はこちら
  • Mayhew PD, et al. (2017) Vet Surg 47(S1):O67-O74. 犬22頭における単孔式腹腔鏡下脾臓摘出術の合併症と短期成績。論文はこちら

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