猫の鼻炎が治らない原因は?鼻咽頭狭窄と、内視鏡によるバルーン拡張術
公開日: 2026年8月 / 執筆・監修: クウ動物病院 動物内視鏡医療センター
薬を続けているのに、鼻水といびきが治らない
「子猫のときの猫風邪から、ずっと鼻水が続いている」「抗生物質を飲ませても、しばらくすると元に戻る」「寝ているときのいびきが、だんだん大きくなってきた」——猫の鼻の症状は、一般的な猫風邪の治療で改善することが多い一方で、どうしても治りきらないケースがあります。
そうした「治らない鼻炎」の背景には、感染そのものではなく鼻の奥の通り道が物理的に狭くなっている状態が隠れていることがあります。このページでは、その代表である鼻咽頭狭窄(びいんとうきょうさく)を中心に、何が起きているのか、どう調べるのか、そして内視鏡でどう治療できるのかを解説します。
- 寝ているときのいびき・鼻を鳴らす音が続いている
- 呼吸が苦しそうな様子が時々見られる
- 食べたあとに吐き戻す(吐出)ことがある
- 鼻水に血が混じる、片側だけから出る
- 猫風邪の治療を続けているのに、数か月以上改善しない
海外の報告(Champetier et al., 2024)でも、鼻咽頭狭窄と診断された猫21頭のうち19頭で持続的ないびきが見られています。いびきは「体質」ではなく、通り道が狭くなっているサインのことがあります。
「治らない鼻炎」の裏に隠れていること
慢性的に続く鼻の症状には、いくつかの異なる原因が考えられます。それぞれ治療の方針がまったく変わるため、見分けることが重要です。
鼻咽頭狭窄(このページの主題)
- 鼻の奥から喉へ抜ける通り道(鼻咽頭)が、瘢痕(はんこん)で狭くなった状態
- ウイルス感染による炎症が治る過程で瘢痕ができ、それが縮んで通路をふさいでいく
- 感染が治まっても構造が変わってしまっているため、薬だけでは戻らない
真菌(カビ)の感染
- アスペルギルスやクリプトコッカスなど。抗生物質はまったく効かない
- 診断には組織を採って調べる検査(生検)と、真菌の培養が必要になる
鼻腔内の腫瘍・ポリープ
- 良性のポリープから悪性の腫瘍まで。片側性の症状や出血で気づかれることがある
そのほか
- 植物の種などの異物、歯の根の炎症が鼻に及んでいるケース
ウイルス性の猫風邪そのものについては、こちらの記事で基礎から解説しています。
画像検査だけでは決まらない——鼻鏡(内視鏡)検査の役割
レントゲンやCTは、鼻の中の構造や病変の広がりを把握するのに役立ちます。とくにCTは、骨や軟部組織の状態を詳しく見ることができます。ただし「そこにあるものが何なのか」——瘢痕なのか、腫瘍なのか、真菌なのか——までは画像だけでは判断できません。
当院では麻酔下で細径の内視鏡(鼻鏡)を用い、鼻腔や鼻咽頭を直接観察します。内視鏡でできることは、大きく3つあります。
- 直接見る — 狭窄がどの位置に、どの程度あるのかを目で確認する
- 組織を採る(生検) — 腫瘍や真菌を鑑別するために、病理検査へ提出する
- 細菌を採る(培養) — どの菌がいるかを調べ、適切な抗菌薬を選ぶ
実際、海外の報告では抗生物質が効かない慢性鼻炎の猫から副鼻腔のアスペルギルス症が見つかった例が報告されており、その診断にはCTに加えて鼻鏡下での生検と真菌培養が必要でした(Akashi et al., 2024)。「効かない薬を続けない」ためにも、原因を確定させる意味は大きいと考えています。
鼻咽頭狭窄が見つかったら——内視鏡によるバルーン拡張術
瘢痕で狭くなった通り道は、内側から風船(バルーン)で押し広げることで治療できます。当院では内視鏡で狭窄部を見ながら、この拡張術を行っています。開いて切る手術ではないため、体への負担を抑えられるのが利点です。
① 拡張前。瘢痕で鼻咽頭の通り道がごく狭くなっています(当院症例)。
② 術中。狭窄部にバルーンを入れ、ゆっくりと膨らませて広げます(当院症例)。
③ 拡張後。通り道が広がり、空気が通るようになりました(当院症例)。
当院では2〜3回に分けて行っています
「一度広げれば終わりではないのですか」とよく聞かれます。実はこの点にこそ、治療がうまくいくかどうかの鍵があります。
日本の複数の大学が参加した研究(Fujiwara-Igarashi et al., 2025)では、鼻咽頭狭窄の猫47頭を対象に、バルーン拡張の成績が調べられました。その結果、無再発期間の長さと関連していた唯一の要因が「はじめから複数回の拡張を計画して行うこと」でした。
計画的に2〜3回行った場合と、1回で終えた場合の比較(Fujiwara-Igarashi et al., 2025)
猫47頭の多施設研究。拡張の間隔は中央値35日。6か月時点でも92%対43%と差が出ています。
当院でも、この考え方に沿って2〜3回に分けて拡張を行っています。再発してから追加するのではなく、あらかじめ計画して繰り返すことで、瘢痕が再び縮むのを抑えることを狙っています。麻酔の回数が増える点はご負担をおかけしますが、結果的に長く症状を抑えられる可能性が高い方法だと考えています。
なお、すべての症例で完全に治るわけではありません。上記の研究でも47頭中18頭(38%)で再発が見られています。また別の報告では、バルーン拡張で十分に広がらない場合の選択肢としてステント留置や外科手術も挙げられていますが、ステントには組織の入り込みや慢性感染といった合併症が起こりやすいことも報告されています(Burdick et al., 2018)。まずは体への負担が少ない内視鏡的な拡張から試み、経過を見ながら次の手を一緒に考えていく——これが基本的な進め方になります。
当院でのご相談
猫風邪の治療を続けても鼻水やいびきが治らない、呼吸が苦しそう、といった場合はご相談ください。診察のうえで、鼻鏡(内視鏡)検査が必要かどうかも含めて、一緒に検討していきましょう。
はじめてご来院の方は 初診の患者さんへのご案内 もあわせてご覧ください。初診問診票を事前にご記入いただくと、当日の受付がスムーズです。
猫風邪(ウイルス性鼻気管炎)の基礎と、実際の症例についてはこちらでご紹介しています。
参考文献
- Fujiwara-Igarashi A, et al. (2025) J Feline Med Surg 27(7). 鼻咽頭狭窄の猫47頭に対するバルーン拡張術の再発因子を検討した日本の多施設研究。論文はこちら
- Champetier A, et al. (2024) J Feline Med Surg 26(11). 猫21例の鼻咽頭狭窄について、内視鏡的治療と外科的治療の成績を比較した研究。論文はこちら
- Burdick S, et al. (2018) J Am Vet Med Assoc 253(10):1300-1308. 犬15頭・猫31頭の鼻咽頭狭窄に対するバルーン拡張とステント留置の転帰。論文はこちら
- De Lorenzi D, et al. (2014) J Feline Med Surg 17(2):117-124. 猫15頭に対するシリコンステント一時留置による治療。論文はこちら
- Akashi Y, et al. (2024) J Am Anim Hosp Assoc 60(5):193-197. 慢性鼻炎として治療されていた猫の副鼻腔アスペルギルス症を、CTと鼻鏡下生検で診断した症例報告。論文はこちら