犬の胆泥症・胆嚢粘液嚢腫・胆石、放置するとどうなる?
公開日: 2026年8月吉日 / 執筆・監修: クウ動物病院 動物内視鏡医療センター
かかりつけの動物病院で、健康診断や別の症状での受診時に受けた超音波検査で、「胆嚢に泥のようなものがたまっています」「粘液嚢腫かもしれません」「小さな石があるようです」と言われることがあります。聞き慣れない言葉が並ぶと、このまま様子を見ていいのか、何か対応が必要なのか、判断に迷われる方も多いのではないかと思います。実は、胆泥症・胆嚢粘液嚢腫・胆石症は、同じ「胆嚢」に起こる変化でありながら、それぞれ性質が異なります。ここでは、その違いと、今後どう付き合っていけばよいかを、一緒に整理していきます。
肝臓と胆嚢の位置関係
胆嚢は、お腹の中の肝臓のすぐそばにある小さな臓器です。まずは大まかな位置関係を確認しておきましょう。
胆泥症・胆嚢粘液嚢腫・胆石症、何が違う?
まず知っておきたいのは、この3つは同じ「胆嚢の中にあるもの」でも、成り立ちも危険性も別物だという点です。
胆汁がうっ滞・濃縮してできる沈殿物です。犬では比較的よくみられ、多くは臨床的な意義に乏しいとされています。超音波検査では、体位を変えると重力に従って動く(沈む)のが特徴です。
胆嚢の粘膜からムチンという粘液が過剰に分泌され、うまく排出されないまま胆嚢の中に層状に蓄積していく病気です。胆泥とは異なり体位を変えても動かず、超音波検査では「星がちりばめられたような」「キウイフルーツの断面のような」特徴的な模様として見えます。実際の検査では、いったん体を横向きに寝かせた状態で10分ほど時間をおいてから再度確認することで、重力で動く胆泥なのか、動かない粘液嚢腫なのかをより確実に見分けることができるとされています。
胆嚢の中に結石ができる病気です。犬ではまれな病気で、海外の報告では有病率は約0.97%、そのうち約87%は無症状のまま偶然発見されているとされています。
超音波検査で「胆嚢に何かある」と言われても、そのどれに当たるのかによって、その後の付き合い方が変わってきます。
実際の症例: 超音波検査の画像
【胆嚢の中に浮遊する泥状の貯留物が見つかりました】
【胆嚢の周囲に変性した部分があります。黒く見える部分が見つかりました。】
【中に白く見える物が認められます。白く見える部分が結石です。】
放置するとどうなる?
胆嚢粘液嚢腫をそのままにしておくと、胆嚢が破裂したり、胆汁性腹膜炎、胆管の閉塞といった合併症に進むことがあります。海外の報告では、症状が出る前の段階で計画的に手術(待機的手術)を行った場合の死亡率は約5%であるのに対し、破裂などの症状が出てから急いで手術(緊急手術)を行った場合は17〜23%まで上がるとされています(Gookin et al., 2025)。この差には、あらかじめ全身状態を整えた上で手術に臨めるかどうかが関係していると考えられています。また、粘液の状態と実際の症状の重さは必ずしも一致しないため、無症状のうちから経過を確認し、早めに方針を相談しておくことが、体への負担が少ない対応につながります。
胆石症をそのままにしておいても、多くは無症状のまま経過します。犬68頭を対象とした海外の後方視的研究では、86.9%は無症状のまま偶然発見され、その後の経過を追えた症例のうち、胆管閉塞・胆汁性腹膜炎・胆嚢の炎症といった合併症に進んだのは7.7%にとどまったと報告されています(Ward et al., 2020)。頻度自体は高くありませんが、指摘された場合は経過を見ながら一緒に対応を考えていきましょう。
胆泥症をそのままにしておいても、多くは臨床的な意義に乏しいとされています。ただし、粘液嚢腫へ移行していく可能性も指摘されているため、気になる場合は定期的に確認していくと安心です。
どんな子に多い?
海外の文献では、胆嚢粘液嚢腫はシェットランド・シープドッグやボーダー・テリアなど特定の犬種で多いという報告があります。ただし、これらは海外でのデータに基づく傾向であり、国内での実際の好発犬種とは異なる可能性があります。当院でも、これらの犬種に特に偏った印象はなく、犬種を問わず起こりうる病気として捉えていただくのがよいと考えています。
また、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症、高コレステロール血症といった内分泌・代謝の病気を併せ持っていると、胆嚢の病気のリスクにも関連するといわれています。健康診断では、これらの病気もあわせて確認していくことが大切です。
どんな時に相談すればいい?
実際に多いのは、当院での健康診断ではなく、他の動物病院での診察や検査の際に「胆嚢に何かある」と指摘され、どうしたらよいか迷ってご相談にいらっしゃるケースです。指摘された内容(胆泥なのか、粘液嚢腫なのか、結石なのか)や、その時の超音波画像の様子によって、今後どのくらいの間隔で経過を見ていくとよいか、精密な検査が必要かどうかが変わってきます。
他院で指摘を受けたまま様子を見ている、あるいはセカンドオピニオンを希望されるという場合も、遠慮なくご相談ください。当院では超音波検査で改めて丁寧に評価を行い、必要に応じて血液検査などもあわせてご提案します。
胆嚢の超音波検査は、胃の中に食べ物やガスが残っていると見えにくくなるため、来院前は絶食(お水は基本的に大丈夫です)をお願いすることがあります。ご予約の際に、絶食の要否や時間帯についてご案内しますので、指示に沿ってご準備ください。
治療は?
胆泥症の多くは経過観察が中心となりますが、胆嚢粘液嚢腫や胆石症で症状がある場合、あるいは進行が疑われる場合には、手術(胆嚢摘出術)という選択肢も出てきます。特に胆嚢粘液嚢腫については、内科的な経過観察が検討できるのは内容物の多くがまだ液状・重力に沿って動く段階の早期例に限られ、粘液が固まって胆嚢の内腔を占拠してしまった段階では手術が優先されるとされています(Gookin et al., 2025)。当院では、体への負担が少ない腹腔鏡下での胆嚢摘出術に対応しており、胆管の状態を直接確認できる胆道鏡(細径内視鏡)を用いた検査も可能です。治療の詳しい選択肢については、別記事「犬の胆嚢の治療、内科管理と手術という選択」で改めてご紹介します。
参考文献
- Gookin JL, et al. (2025) J Am Vet Med Assoc. 犬の胆嚢粘液嚢腫の診断・管理に関する総説。論文はこちら
- Ward PM, et al. (2020) J Am Anim Hosp Assoc 56(3):152. 犬68頭を対象とした胆石症の有病率・臨床像・転帰に関する後方視的研究(購読誌のためリンクなし)
当院でのご相談
健診や他院での検査で胆嚢について指摘を受けた、どうしたらよいか分からない、という場合はお気軽にご相談ください。当院では超音波検査に加え、必要に応じて腹腔鏡下胆嚢摘出術にも対応しています。
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