当院の腹腔鏡下胆嚢摘出術、胆道鏡・ICG造影による低侵襲な対応
公開日: 2026年8月吉日 / 執筆・監修: クウ動物病院 動物内視鏡医療センター
治療編では、開腹手術と内視鏡(腹腔鏡)下手術という2つのアプローチをご紹介しました。ここでは、当院で実際に行っている腹腔鏡下胆嚢摘出術について、術中に用いている胆道鏡やICG造影も含めて詳しくご紹介します。
腹腔鏡下手術の安全性・有効性について
「内視鏡(腹腔鏡)手術は本当に大丈夫なのか」と不安に思われる方もいらっしゃると思います。国内の報告をいくつかご紹介します。
犬を対象とした報告では、腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術完遂率は93%で、開腹手術への移行が必要になったのは4.1%にとどまりました(Kanai et al., 2018)。近年の技術改良を反映した別の報告でも、開腹への移行率は8.8%と同様に低く、術中出血・胆管損傷・再手術は報告されていません(Kondo et al., 2023)。
一方で、手術である以上リスクがまったくないわけではありません。上記の報告では、周術期(手術中・術後それぞれ)に約2.6%の死亡例も報告されています。腹腔鏡下手術は万能というわけではなく、状態によっては開腹手術への切り替えが必要になることも含めて、安全性を最優先に判断していく治療法だとご理解いただければと思います。
当院の腹腔鏡下胆嚢摘出術
当院では、胆嚢摘出術が必要な場合、多くの症例で腹腔鏡下での手術に対応しています。
具体的な流れとしては、まずお腹に4〜5ヶ所の小さな穴をあけ、そこから専用のポート(筒状の器具)を挿入します。ほとんどの創は5〜10mm程度ですが、摘出した胆嚢を取り出す1ヶ所だけは、小型〜中型犬でおおむね12〜20mm程度と少し大きめになります。手術は執刀医と助手など、通常3名程度のチームで行います。
お腹の中にカメラと鉗子を入れ、モニターに映し出された拡大画像を見ながら、電気メスや超音波切開凝固装置で血管の処理をし、専用のクリップで胆嚢管(胆嚢と肝臓の管をつなぐ部分)を閉じてから胆嚢を切り離します。腹腔鏡下での手術には、カメラで胆嚢管の位置を先に確認し、早い段階でクリップをかけられるという利点があります(開腹手術では、胆嚢を肝臓から外した後でなければ根元をしっかり確認できません)。この順序の違いが、より丁寧で周囲組織への損傷が少ない処理につながっています。
ただし、重度の癒着や広範囲の炎症など、術中の状況によっては、安全性を優先して開腹手術に切り替える判断をすることもあります。腹腔鏡はあくまで手段であり、その子にとって最も安全に手術を終えられる方法を、術中の状況に応じて選択しています。
当院は腹腔鏡下での外科手術に取り組んでいます。胆嚢摘出術に限らず、腹腔鏡を用いた手技全般の経験を積んでいることも、安定した手術対応につながっていると考えています。
術後の経過
手術翌日までは、状態に変化がないか注意深く観察します。翌日に血液検査を行い、合併症がないかを確認した上で、経過が順調であれば手術翌日に退院いただくことも珍しくありません。退院後は無理のない範囲で普段通りに過ごしていただき、1週間後に診察・抜糸を行います。一般的な術式では、お腹に3〜4ヶ所の傷が残ります。
術中の胆道鏡による胆管内確認
当院の特長のひとつが、胆嚢摘出術の際に、必要な症例では胆道鏡(細径内視鏡)を用いて胆管内を直接確認できることです。胆管の中に結石が残っていないか、閉塞がないかを、実際に目で見て確認できるため、見落としのリスクを減らすことができます。特に胆管閉塞や総胆管結石が疑われる症例では、この確認作業がより重要な意味を持ちます。手術後になって胆管内の結石の取り残しが判明すると、再手術が必要になることもあり得ますが、術中に直接確認しておくことで、そうした事態を避けやすくなります。
ICG造影による胆管の評価
胆道鏡による直接観察に加え、症例に応じてICG(インドシアニングリーン)という薬剤を用いた胆管の評価も行っています。これは、特殊な光でICGを光らせることで、胆管が正常に通っているか(開通性)を確認する手技です。胆道鏡による直接観察とは異なる角度からの評価方法であり、海外では、破裂した胆嚢粘液嚢腫の症例で、術中にICG胆管造影を用いて胆管の開通性を確認した報告もあります(Kim et al., 2025)。ただし、これは症例報告(1例)であり、犬における使用実績としてはまだ限定的な段階です。当院では、症例の状態に応じて、胆道鏡とICG造影を組み合わせながら、胆管の状態をできる限り多角的に確認するようにしています。
手術時の感染対策
胆石症の手術例を対象とした海外の報告では、摘出した胆道サンプルの53%で細菌培養が陽性となり、そのうち22%が多剤耐性菌であったとされています(Arnold & Jeyakumar, 2025)。この結果から、周術期の抗菌薬使用が重要であることが示唆されています。当院でも、こうした報告を踏まえた上で、術前後の感染対策に配慮しながら手術を行っています。
参考文献
- Kanai H, Hagiwara K, Nukaya A, Kondo M, Aso T. (2018) J Vet Med Sci 80(11):1747-1753. 犬76頭における腹腔鏡下胆嚢摘出術の短期転帰。論文はこちら
- Kondo M, Hagiwara K, Nukaya A, Aso T, Kanai H. (2023) J Small Anim Pract 64(5):288-295. 犬34頭における漿膜下層剥離法を用いた腹腔鏡下胆嚢摘出術。(購読誌のためリンクなし)
- Kim Y, Lee S. (2025) Vet Med Sci 11(4):e70430. 破裂した胆嚢粘液嚢腫の犬1例における術中ICG胆管造影を用いた胆管開通性評価(症例報告)。論文はこちら
- Arnold IJ, Jeyakumar S. (2025) Am J Vet Res. 犬の外科的管理胆石症における胆道培養陽性率。論文はこちら
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