猫の血便——繰り返す下痢の原因と、大腸内視鏡でわかること
公開日: 2026年9月 / 執筆・監修: クウ動物病院 動物内視鏡医療センター
猫のトイレに血がついていたとき
猫砂に赤いものが混じっていた。便にゼリーのような粘液と血がついていた——気づいてひやりとされたと思います。
猫の血便は、一度きりで治まることもあれば、何か月も繰り返しているのに原因がはっきりしないというかたちで続くこともあります。
このページでは、様子を見ていい場合と受診したほうがいい場合の見分け方、そして繰り返す血便のときに何を調べるのかを、文献をもとに整理しました。猫では、犬とは考えるべき原因の顔ぶれが変わります。そこがこのページの中心です。
赤い血か、黒い便か
同じ「便に血が混じる」でも、血の色で、どのあたりから出血しているかがおおよそ推測できます。受診されるときに教えていただけると、診察が早く進みます。
① 赤い血が混じっている
猫では、ゼリー状の粘液といっしょに赤い血が混じるという出方をすることが多くあります。便の最後のほうに血がしたたることもあります。
血が体の中を通る距離が短いため、赤いまま出てきます。大腸・直腸・肛門など、出口に近い側からの出血が考えられます。
② 便全体が黒く、タール状になっている
猫砂に埋まってしまうため、こちらは見落とされやすい出方です。コールタールのように黒くてベタつく便になります。
胃や小腸など上流で出血すると、血液が消化される過程で黒く変色します。赤くないため「血便」と気づかれないまま時間が経ってしまうことがあります。
模式図です。実際の位置関係や形とは異なります。なお出血の量が多いときは、上流からの出血でも赤く見えることがあります。
黒い便が出ていて、あわせて吐いている場合は、胃や小腸の潰瘍などが背景にあることがあります。慢性的に吐いてしまう場合については犬・猫の慢性嘔吐の記事もあわせてご覧ください。
すぐに受診したほうがいいサイン
- ぐったりしている、元気や食欲がない
- 繰り返し吐いている
- 便全体が黒く、タール状になっている
- 血の量が多い、水のような下痢に血が混じる
- 子猫である(猫汎白血球減少症などで急速に悪化することがあります)
- 歯ぐきや舌の色が白っぽい
- 1週間以上続いている、または何度も繰り返している
- 体重が減ってきている
逆に、元気も食欲もあり、便に少し血がついている程度で1〜2日で治まる場合は、緊急性が高くないことが多いです。ただし、それが何度も繰り返しているのであれば、原因を調べる価値があります。
猫の血便で考えられること
大腸の病気の原因は幅広くあります(Schmid, 2026)。
- 細菌やウイルスの感染、そして寄生虫——とくに原虫
- 食べ物への反応(食物アレルギー・食事不耐性)
- 慢性の腸の炎症
- 腫瘍、とくにリンパ腫
- 便秘が続いたことによる粘膜の傷
- ストレスや環境の変化
このなかで猫でとくに問題になるのが、若い猫では原虫の感染、高齢の猫では腸の炎症と腫瘍の区別です。順にご説明します。
若い猫・多頭飼育では、原虫の感染があります
猫の大腸の炎症を起こす感染性の原因として、世界的に最も多いもののひとつとされる原虫がいます(Gookin et al., 2017)。犬にはない、猫ならではのテーマです。
症状が、まさにこのページの主題そのものです。粘液と新鮮な血が混じった下痢が、繰り返し起こります(Bastos et al., 2019)。
こんな猫で見つかりやすいことが知られています
- 若い猫(とくに1歳以下)
- 多頭飼育の環境で育った猫(繁殖施設・保護施設など)
- 純血種
- 以前から下痢を繰り返している
スペインの報告では、多頭飼育の環境にいた慢性の下痢の猫93頭のうち36頭(38.7%)が陽性で、1歳以下では57.1%、それより上では27.3%でした(Arranz-Solís et al., 2016)。リスク因子については Yao & Köster(2015)にまとめられています。
ここで大切なのは、よく使われる駆虫薬では効かないことが多いという点です(Gookin et al., 2017)。そのため、「駆虫薬を飲ませたのに下痢が続く」という経過をたどりやすく、原因不明のまま長引いてしまうことがあります。
診断は便の検査で行います。顕微鏡で直接見る方法のほか、外部の検査機関でPCR検査ができます。ほかの原虫と見間違えられやすいため、疑わしいときには狙いを定めた検査が必要になります。
この場合、内視鏡は必要ありません。治療をどう進めるかは、検査で確定してからご相談します。繰り返す血便で、まだ便のくわしい検査をしていないのであれば、そこから始めるのが順序です。
高齢の猫では、炎症か腫瘍かが問題になります
年齢を重ねた猫で慢性の下痢や血便が続くとき、いちばんの分かれ目が「腸の炎症なのか、リンパ腫なのか」です。
とくにゆっくり進むタイプのリンパ腫は、慢性の腸の炎症と症状も、超音波検査の見え方も、よく似ています。食欲が落ちる、体重が減る、下痢や嘔吐が続く——どちらでも同じことが起こりえます。
米国獣医内科学会(ACVIM)の専門家による合意(2023年)
猫の腸において、炎症性の病変とリンパ増殖性の病変を確実に見分けられる、単一の診断基準もバイオマーカーも存在しない。診断は得られた臨床情報を統合して下すものであり、病理組織検査が依然として中心である。
Marsilio et al., 2023。なお同じ声明のなかで、専門家たち自身が「多くの推奨は中程度から低いレベルの根拠に支えられている」と述べています。確定した答えがまだ無い領域だ、ということでもあります。
実際の区別には、採った組織をふつうに顕微鏡で見るだけでなく、特殊な染色や遺伝子の検査まで必要になることがあります(Willard, 2012)。それだけ、この2つは見分けにくいということです。
見た目では区別できないから、組織を調べます
ここが、このページで一番お伝えしたいところです。
内視鏡で腸の粘膜を見ると、赤くなっている、荒れている、といったことはわかります。しかしその見た目だけでは、炎症なのか腫瘍なのかは決まりません。組織を一部採って顕微鏡で調べて、初めて区別がつきます。
猫では、内視鏡で採る粘膜の生検で判断がつかないことがあり、その場合は腸の壁の全層を採る生検をご提案することもあります。どちらの方法にも向き不向きがあり、その子の状態を見て選びます。
2つの採り方の違いについては内視鏡生検と全層生検の記事で、そもそも内視鏡で組織を採るとはどういうことかについては内視鏡生検の記事でくわしく解説しています。
大腸内視鏡でわかること、検査の実際
大腸内視鏡は、肛門から細いカメラを入れて直腸から大腸の粘膜を直接見ながら、必要な場所の組織を採る検査です。レントゲンや超音波では、粘膜の細かい変化までは見えません。
模式図です。実際の位置関係や形とは異なります。
検査の前に
24時間以上前からの絶食が必要です。腸の中に便が残っていると粘膜がよく見えないため、胃カメラよりも準備に時間がかかります。状況によっては、液体の食事などに切り替えていただくことをご相談することもあります。
なお、直腸の洗浄は麻酔をかけたうえで当院で行いますので、ご自宅で浣腸していただく必要はありません。
検査そのもの
全身麻酔をかけて行います。かかる時間も、入院が必要かどうかも、胃カメラの場合と変わりません。「大腸だから大がかりになる」ということはありません。
できものが見つかったら
内視鏡でその場で切除する方法もありますが、猫は体が小さく、腸に穴があいてしまうリスクが犬より高くなります。そのため当院では、まず組織を採って診断をつけることを優先し、切除が必要かどうかは結果を見てからご相談しています。
当院では猫の大腸内視鏡も行っています。内視鏡の設備や体制についてはこちらにまとめています。
当院でのご相談
下痢や血便が続いている、駆虫薬や整腸剤を試したけれど繰り返す、かかりつけで様子を見ましょうと言われたけれど心配——といった場合はご相談ください。
いきなり内視鏡をお勧めすることはありません。まずは便のくわしい検査や食事の見直しから始めて、それでも原因がはっきりしないときに大腸内視鏡をご提案します。
はじめてご来院の方は 初診の患者さんへのご案内 もあわせてご覧ください。初診問診票を事前にご記入いただくと、当日の受付がスムーズです。
犬の血便については別の記事で、考えられる原因が猫とどう違うかを含めて解説しています。
参考文献
- Marsilio S, Freiche V, Johnson E, et al. (2023) J Vet Intern Med 37(3):794-816. 猫の慢性腸症について、炎症性の病変と低グレードのリンパ腫をどう見分けるかをまとめたACVIMのコンセンサスステートメント。論文はこちら
- Gookin JL, Hanrahan K, Levy MG (2017) J Feline Med Surg 19(3):261-274. 猫の原虫性大腸炎について、診断・治療・薬剤耐性の現状をまとめた総説。論文はこちら
- Arranz-Solís D, Pedraza-Díaz S, Miró G, et al. (2016) Vet Parasitol 221:118-122. 多頭飼育の環境にいた慢性下痢の猫93頭で、原虫の検出率と関連する要因を調べた研究。論文はこちら
- Bastos BF, Almeida FM, Brener B (2019) Rev Bras Parasitol Vet 28(1):1-11. 猫の原虫感染症について、症状・分布・診断・治療をまとめた総説。論文はこちら
- Yao C, Köster LS (2015) Vet Res 46(1):35. 同じく猫の原虫感染症の総説で、リスク因子を体系的に整理している。論文はこちら
- Willard MD (2012) Vet Clin North Am Small Anim Pract 42(4):693-706. 高齢の犬猫の消化管腫瘍について、診断の進め方をまとめた総説。論文はこちら
- Schmid SM (2026) Vet Clin North Am Small Anim Pract 56(3):747-768. 犬と猫の大腸疾患について、診断・治療・転帰をまとめた総説。論文はこちら